この記事では、2021年2月に行われた日比谷高校一般入試の国語大問5(古典文学の鑑賞文)を解説します。
日比谷高校の一般入試では、国語や数学、英語は自校作成問題での試験が行われます。
自校作成問題はその学校を受験しにくる生徒のレベルに合わせた難易度となります。
したがって、日比谷高校の自校作成問題は都立の共通問題や他校の自校作成問題と比べても難しい問題であることが多いです。
この記事は、日比谷高校の自校作成問題を対策するにあたって
「本文をどのように読み進めていけばいいのか」
「どのような手順で選択肢を選んでいけばいいのか」
「記述問題を書くとき、どのような思考回路で書く内容を決めればいいのか」
といったことを知りたい人向けに書きました。
ですので、この記事を読んでもらえれば上記のことを過去問解説を通して理解していただけます。
その際、
事前に自力で問題を解いてからこの解説記事を読む
ことを強くオススメします。
では、解説を始めます。
本文解説
今回の文章では日本人の自然との距離感、自然の景色と日本人の情感との結びつきを二首の和歌を具体例に用いながら説明しています。
和歌を通して、日本人はどのような心情をどのように表現してきたのでしょうか。
第1段落・第2段落
論理構造のヒント
①
・「見ない(否定形)」
・「~ではなく」
⇒対比構造をつくる。
②
・「~のなかに」×5
⇒反復されている語句は重要であると考える。
では、どのような対比構造があるのでしょうか。
見る⇔聴く、触れる、嗅ぐ
視覚⇔聴覚、触覚、嗅覚、味覚
主体と客体(に分離している)⇔モノのなかに人が、人のなかにモノが入り込んでいる
客観的な世界⇔世界のなかに人がいる
人間が景色を見る⇔景色のなかに人間がいる
⇒和歌は上記のうち右側にあるもの(見えないもの)を好む
ここに、日比谷高校の国語自校作成問題対策のみならず高校受験の、そして大学受験の国語で役に立つ話が紛れ込んでいるので本文解説の流れからしばし脱線して詳しく解説しておきます。
まずは言葉の意味から。
・主体:自ら意志を持ち、他に対して働きかけを行う存在。理性をもっている人間。
・客体:主体が行う認識や行動の対象(ターゲット・標的)となるもの。
・主観的:自分の価値観で⇒自分と距離感を縮めて
・客観的:誰にでも共通するものの見方で⇒自分との距離を離して=距離を置いて
これらの言葉の意味を理解しておきましょう。
理解できているのかどうかの判断基準は、「小学6年生に説明して納得させることができるか」です。
次に、
・主客二元論
について解説します。
主客二元論とは、
「理性を持つ人間こそがこの世界の主人公(=「主体」)であり、それ以外のもの(自然)はすべて人間に利用されるために存在する付属品・従属物である。」という考え方です。
主に近代西洋でとられた思想です。
大問4で解説した「存在の偉大な連鎖」とも同じ考え方です。
この文章では、
「西洋では主客二元論で人間と自然を切り離して認識するけれども、私たち日本人は自然と人間が一体であると考えている。」
と述べているわけです。
慣れてくると第1・第2段落の内容からここまで読み取ることができます。
ただ、それはできなくても大丈夫です。
第5段落でもっと分かりやすく説明してくれているからです。
以上、本文から脱線した解説でした。
正直、日比谷高校の自校作成問題で合格点をとるだけならここまで理解している必要は無いかもしれません。
しかし、こういうことを知り、理解しておくと国語の勉強が楽しくなります。
目の前の文章を追いかけるだけでなく、その背後にある価値観や思想にも目を向けられるといいですね。
第3段落・第4段落
・「たとえば・・・な光景が浮かぶ」
⇒具体的な景色について説明している
⇒軽く目を通しておけばOK
・「淋しさ」「温かさ」を感じる
⇒人の思い・情感について述べている
⇒日比谷高校自校作成問題の国語では、大問5でこの「古典的な文章や和歌、俳句、漢詩から読み取ることができる人の情感」に注目させることが非常に多い
⇒毎回注目して読み進めるようにする
・「~できない」:否定形の表現
・「~が」:逆接の表現
⇒対比構造をつくる。
見出すことはできない⇔感じている
これは、第1段落の対比構造
見る⇔聴く、触れる、嗅ぐ
視覚⇔聴覚、触覚、嗅覚、味覚
とも一致している。
・「包み込まれている」:第1・第2段落で反復されていた「~のなかに」の言い換え表現。
・「~だけ」:限定する表現⇒筆者の主観を表現するもの=文章全体の読解でも重要な箇所であることを示す。
⇒二人の「魂の交わり」がそこにあることが重要だと筆者は考えている
(もっと具体的に説明すると)
⇒筆者は、「和歌を詠んだ人は、『魂の交わり』をしている!」と考えている。
⇒そして、そう考えることで筆者は穏やかな気持ちになっている。
第5段落
・景と心は一つ=景色と心情は一体となっている
・掛詞
自然の相(雪)
人間の行動(行き)
の二つを同時に表す。
掛詞は、高校の古文で学ぶことなので軽く説明しておきます。
日比谷高校の国語自校作成問題対策にはあまり関係ないのでここは読み飛ばしても構いません。
掛詞とは、一つの語に対して発音が同じ二つの語の意味を同時にもたせる和歌の修辞法です。
例えば
・「あき」⇒①秋(自然の相)②飽き(人間の心情)
・「まつ」⇒①松(自然の相)②待つ(人間の行動、そして早く会いたいという心情)
といった具合です。
・自然と人間が一体
第1段落の「主体」「客体」「客観」の意味があまり良く分からなかったり、「主客二元論」に関する考えができなくてもこの段落まで読み進めて「日本人は自然と人間を一体のものとして考える」ということを読み取ることができればまったく問題ありません。
・言葉と認識
言葉(原因)⇒認識(結果)・・・①
認識(原因)⇒言葉(結果)・・・②
筆者は、「同音異義語は認識のありようにおいて生まれた」「言葉がそれ(認識)を育てた」と言っている。
始まりは「認識⇒言葉」だが、さらに「言葉⇒より深い認識」ともなっていて①でも②でもない複雑な関係を指摘している。
(第6段落ではそれを「重層的」と表現している。)
第6段落
話を和歌に戻しています。
先ほどの和歌を題材にして、自然の相・人間の行動がどう表現されているかを確認しています。
自然の景(自然の相):「こしのしら山」
⇒人間の行為(人間の行動)を引き出す:「知らない」
自然と人間の行為は重層的に重なっている。
⇒重層的:いくつもの要素が複雑に組み合わさっている様子です。
⇒「人間は自然を認識し、それを言葉で表現する。認識によって言葉が、言葉によって認識が豊かになってきた。」という単純な因果関係で説明的な複雑な関係を「重層的」と表現しています。
掛詞に加え、他の和歌の修辞法が登場しています。
ここも日比谷高校の国語自校作成問題対策にはあまり関係ありませんので、読み飛ばしても大丈夫です。
・枕詞:特定の言葉を導くための前置きとして使う5文字の言葉。例:「ちはやぶる」⇒「神」
・序詞:特定の言葉を導くための前置きとして使う6文字以上の言葉。枕詞のような、「特定の枕詞」⇒「特定の語」という関係性はない。
・縁語:ある語と関連の深い語を意図的に使用する技法。例:「笠(かさ)」⇒「さす」「雨」
余裕のある人は知っておいてください。
第7段落・第8段落
もう1つ別の和歌が紹介されています。
・この和歌で詠まれている心情は、激しい愛の絶唱である。
絶唱⇒「行かないで!」「行かせない!」(具体的な叫びを用いて説明している)
第9段落
・激しい愛の絶唱⇒「炎熱の夏」「真っ赤な炎」「激しく詠われる」
2つ目の和歌について、今度は比喩を用いて説明しています。
第10段落・第11段落
1つ目の和歌(「兼輔の歌」)と、2つ目の歌(「狭野弟上娘子の歌」)が対比構造をつくっている。
解説をシンプルにするため、1つ目の和歌をA、2つ目の和歌をBとする。
AとBの対比を、これまでの段落で登場した表現も駆使して次のように整理する。
A | B |
真冬 | 真夏 |
白(白い雪) | 真っ赤(真っ赤な炎) |
はなむけ(行ってらっしゃい) | 別れの悲しみ(行かないで!) |
静かな情愛 | 激しい情感 |
静 | 動 |
山 | 海 |
どちらも人を送り出し見送る様子を詠んだ和歌だが、このように対象的になっている。
・「が」:逆接⇒対比構造をつくる。
Bの歌がAの歌を元にして作られたとはいえない⇔Bの言葉や言い回し・配置、主題がAに引き継がれていると思う
国語では、筆者が「そう思う」と言っていることが絶対です。
なので、Bの言葉や言い回し・配置、主題がAに引き継がれている(AがBを引き継いでいる)と考えましょう。
・歴史と伝統がわたしたちの感受性を育てている
⇒何の歴史?どんな伝統?
⇒歌の歴史、情感の歴史、言葉と感受の蓄積
(どんな歌でどんな言葉でどんな表現をしてどんな情感を詠ってきたのか、というそれまでの和歌の歴史)
第12段落
・雪景色
⇒Aの歌を思い出す
⇒哀切や悲しみが、Aの歌で詠まれているような静かな思いになった
=自分も自然のなかにいると思った
⇒すべてを受け止めることができた
「なかに」は、第1・第2段落で反復されていた語である。
そして、それは「自然と人間が一体としてある」とも同じである。
このように、文章全体を通して言及されていることが文章の「主旨」をかたちづくります。
第13段落
和歌は
・自然のうつろい
・人々の有情の機微
と結びついている。
これは第6段落で言及されていることの反復ですね。
ここも主旨を構成するパーツになりそうです。
・雪が降り積もる日⇒Aの歌のような静かな思いになる(第12段落より)
・炎暑の夏⇒Bの歌のような激しい思いになる
設問解説
本文解説が終わりました。
ここからは設問の解説をします。
とはいえ、本文を徹底的に解説しましたので新しいことはほとんどありません。
本文解説の確認のつもりで読んでいきましょう。
問1
第1・第2段落の対比構造、つまり
見る⇔聴く、触れる、嗅ぐ
視覚⇔聴覚、触覚、嗅覚、味覚
主体と客体(に分離している)⇔モノのなかに人が、人のなかにモノが入り込んでいる
についての設問です。
選択肢
ア:「視覚」⇔「感覚」「個人的な思い」。これは内容的には◯です。
しかし、これだけだと「主体と客体」⇔「モノのなかに人が、人のなかにモノが入り込んでいる」(つまり、この文章の主旨である自然と人間が一体としてあること)への言及がないことになります。それでは不十分です。ということで×です。
イ:「視覚的に」⇔「目を閉じたときに」。「目を閉じたときに」とは書いてありません。×です。
ウ:「視覚」⇔「思い」、「客体」⇔「自分も含めた世界(自分が入り込んでいる世界)」。アよりこちらのほうが第1・第2段落の対比構造に言及できています。これが◯です。
エ:「一体化することで感じる」。「自然と人間が一体としてあること」は、和歌を詠む際にはそうする、それ以外のときはそうしない、という「する・しない」の関係つまり動作ではありません。「~である」、つまり状態です。この区別をすることで、これが×であることがわかります。
問2
傍線部のある第4段落が読解できているかどうかを問う問題です。
「~だけ」:限定する表現⇒筆者の主観を表現するもの=文章全体の読解でも重要な箇所であることを示す。
⇒二人の「魂の交わり」がそこにあることが重要だと筆者は考えている
でしたね。
選択肢
エ:「魂の交流」⇒「魂の交わり」の言い換えである⇒◯
ア~ウに共通:あるのは「魂の交わり」だけ⇒それ以外のものが存在するとしている選択肢なので×となる。
ア:「人の心の豊かさがある」⇒×
イ:「人の優しさがある」⇒×
ウ:「お互いを信じ合う気持ちが存在している」⇒×
問3
第5段落が読解できているかどうか、つまりこの文章のメインテーマでもある「自然と人間が一体としてある」を理解できているかどうかを問う設問です。
また、認識と言葉(修辞)の関係について、始まりは「認識⇒言葉」であり、さらに「言葉⇒より深い認識」ともなっていると述べていることに注目する。
選択肢
ア:「自然と人間の行動が一体」、「認識」「言葉」「深められている」⇒上記のすべてに言及している⇒◯
イ:「双方に通じる言葉」「作者の内面を自然の情景として認識させる」⇒「自然と人間が一体」がない⇒×
ウ:「認識を一体にする」⇒一体になっているのは認識ではない⇒×
エ:「修辞を用いることで認識に導く」⇒順序が逆なので×
問4
第10段落・第11段落にまとめられている、二首の和歌の対比構造や、AがBを引き継いでいるという関係性に対する理解を問う問題です。
選択肢
ア:「同じ別れの思い」⇒Aは「はなむけ」、Bは「別れの悲しみ」を詠んでいる⇒×
イ:「AがBを引き継いでいる」⇒◯
ウ:「非現実的な比喩」⇔「現実の風景」。この対比はない⇒×
エ:「率直な」⇔「複雑な」。この対比はない⇒×
問5
「慕っています」に該当する箇所をAから抜き出す。
・「ども」が逆接であることに注意する⇒対比構造に注目する。
(「ども」が逆接であることの例:「遊びたい。だけれども勉強する。」)
・「慕う」がプラスの意味をもつ語句であることに注意する。
「しらね」⇔「たづねむ」
・しらね⇒「知らね」⇒「知らない」=突き放す、冷たい印象=マイナス
・「たづねむ」⇒「訪ねむ」⇒「訪ねよう」=今後の再会を匂わす、温かい印象=プラス
「知らない」⇔「訪ねよう」(こちらが「慕う」に近い)
十字以内なので、「たづねむ」(四字)より「跡はたづねむ」(六字)のほうがふさわしいだろうと考える。
日比谷高校自校作成問題の国語は、大問5で古典的な文章やそこで表現されてる古来の日本人の価値観にいかに親しんでいるかが問われています。
大問3・大問4よりも主旨のバリエーションは少ないです。
1問1問を丁寧に読解していけば一番早くコツを掴むことができる大問であるといえます。
同じ年度の他の大問の解説記事を貼っておきます。
都立日比谷高校 自校作成問題・国語 2021年度入試(令和3年度入試)大問3解説
https://hibiya-goukaku.com/1805/
都立日比谷高校 自校作成問題・国語 2021年度入試(令和3年度入試)大問4解説
https://hibiya-goukaku.com/1823/
特に大問4の「存在の偉大な連鎖」は、今回の解説と合わせて読んでおくことをオススメします。
今回は以上です!