このページでは、2025年1月に実施された都立日比谷高校推薦入試の小論文を解説します。
なお、事前に星進会の「教科別日比谷高校合格メソッド・小論文」を読んでいただくと以下の解説への理解度が高まると思います。
また、ここで解説している小論文の問題は日比谷高校のホームページで入手することができます。
まだお持ちでない方はこのURLから問題を入手し、一度解いてみてから解説を読むことをお勧めします。
小論文の解説では、知識・発想・文章について日比谷高校受験生のレベルに合わせることを意識しました。
マニアックすぎる知識や突飛すぎる発想に基づいた解説にしてしまうとこの記事の存在価値がなくなるからです。
皆さんが当日に実践できる「知識の活用法」「発想法」「文章作成法」が身につく記事になっています。
では、解説を始めます。
2025年度入試で日比谷高校が小論文テーマに選んだのは「高齢者が保有する金融資産」と「社会保障」です。
このテーマは、平成29年度入試でも取り上げられており、高齢者と若年層の間にある世代間格差や、社会保障制度の在り方について考察を深める構造となっています。
今回の解説では、「社会保障をさらに拡充し、高齢者の安心を支える」アプローチAと、「社会保障を縮小して世代間格差を是正する」アプローチBという、異なる2つの視点から問題を分析し、それぞれの考え方に基づいた解答例を示します。
アプローチA
「社会保障をさらに充実させて高齢者が抱える不安を解消しよう」
「日本は福祉国家になって社会保障を充実させよう」
をこの問題のテーマと考えた場合のアプローチとなります。
問1の解説
問1の設問要求は以下のとおりです。
- 60歳以上の金融資産の推移について述べる
- 図1からわかることについて述べる
- 図2からわかることについて述べる
- 表1からわかることについて述べる
- 図1、図2、表1からわかることについての理由を述べる
- 160~200字で述べる
この設問要求を1つ1つ満たしていくことを意識すれば大丈夫です。
60歳以上の金融資産の推移について図1からわかること
60歳以上の世帯あたり金融資産は横ばいまたは微減の傾向にあります。
一方、60歳未満の世帯あたり金融資産は年々増加しています。
また、60歳以上の平均値(1900万円)と中央値(1000万円)の差が大きく、世帯間の格差が大きいことが特徴です。
60歳以上の金融資産の推移について図2からわかること
60歳以上の金融資産の大半は預金であり、特に定期性預金が大きな割合を占めています。
預金額全体は横ばいですが、生命保険の評価額は加齢とともに明確に減少しているため、長期的な減少傾向が見られます。
60歳以上の金融資産の推移について表1からわかること
表1によると、60歳以上の金融資産の保有目的として最も多いのは「老後の生活資金」です。
また、3位「旅行・レジャー」や4位「耐久消費財の購入」といった消費のための項目も目立っています。
一方で、2位「備え」や5位「安心」という項目は、不安や予期せぬ出来事に備えるための資産保有目的であると考えられます。
このことから、60歳以上の金融資産は消費と不安対処のためのバランスが取れた形で保有されているといえます。
図1、図2、表1を総合してわかること
60歳以上の金融資産は、生活資金やレジャー、耐久消費財購入といった用途で使用されるため、年を経るごとに少しずつ減少しています。
しかし、定期性預金や流動性預金の額が横ばいであることから、大幅な資産減少は見られません。
高齢者の生活は年金や社会保障によって支えられ、資産の減少を緩やかにしていると考えられます。
問1の解答例
図1から、60歳未満の金融資産は増加する一方、60歳以上の金融資産は年を経るごとに微減しています。また、平均値と中央値の乖離から、60歳以上の金融資産には世帯間格差があります。図2では、生命保険の評価額が減少している一方で、定期性預金や流動性預金の額は横ばいです。表1から、生活資金や旅行、耐久消費財の購入が金融資産の主な保有目的ですが、「備え」「安心」といった不安への対処も重要な目的です。(196文字)
問2の解説
問2の設問要求は以下のとおりです。
- 高年齢の層が保有する資産を若い世代に移転させるための施策を提案する(「金融資産」ではないことに注意する)
- 表1を参考にする
- 図3を参考にする
- 400~450文字で書く
表1の読み取り
高年齢の層が金融資産を保有する目的を大別すると、
・「生活資金」「旅行・レジャー」「耐久消費財の購入」といった明確な使用目的
・「備え」「安心」という、不安解消
の2つに分かれます。
図3の読み取り
図3によると、若い世代が結婚をためらう主な理由は次の2点に要約できます。
①挙式や新生活準備にかかる経済的負担が結婚の障壁となっています。
この問題を解決するには、高齢者から挙式や新生活のための費用を若い世代に贈与できる仕組みを整えることが有効です。
②若い世代が結婚生活を始めるための住居が確保できないことも、結婚をためらう要因となっています。
リード文にある「住宅関連資産」を活用し、高齢者が保有する不動産を若年層に贈与できる仕組みを整備することで、結婚を促進する施策を実行することが望まれます。
問2の解答例
高齢者が保有する資産を若い世代に移転させる施策として、以下の2点が考えられる。「結婚を控えた若年層への高齢者からの金融資産や住宅関連資産の贈与に係る贈与税を免除すること」と、「高齢者に対する社会福祉を充実させて経済的不安を軽減すること」である。まず、図3によると、若い世代が結婚をためらう主な理由は「挙式や新生活の準備費用」や「結婚生活の住居費」にあり、金融資産や住宅関連資産が不足していることが明らかである。したがって、高齢者から子や孫への贈与に係る税を免除することで、資産の移転を促進できると考えられる。次に、表1からは、高齢者が「備え」や「安心」、さらには「生活資金」のために資産を保有していることがわかる。社会福祉を充実させ、年金などで生活資金を補うことで、高齢者が不安なく資産を手放せる環境を整えれば、若い世代への資産移転がよりスムーズに進み、結婚や子育ての支援が強化され、少子化問題の解決に向けた効果がさらに期待できる。(416文字)
アプローチB
このアプローチでは「社会保障の縮小による世代間格差の是正」「高齢者優遇の見直し」がテーマとなります。
問1の解説
設問要求はアプローチAと全く同じですが、図や資料から読み取る情報に違いがあります。
図1
60歳以上の金融資産はほぼ横ばいで推移しており、仕事を退職して収入が減った後でも、一定の資産額を維持しています。
図2
60歳以上の金融資産の中で、流動性預金は自由に使える資産ですが、その額が横ばいであることから、生活資金を使っても年金で補填されていると考えられます。
また、現役世代よりも多くの預金を保有していることが示されています。
表1
「備え」や「安心」といった漠然とした目的で金融資産を保有している高齢者が多く、必ずしも明確な使途があるわけではないことがうかがえます。
図1・図2・表1
60歳以上の金融資産は主に「老後の生活資金」として保有されていますが、実際には生活資金を支出しても資産は減少していません。
これは年金や社会保障が充実しており、高齢者の生活を十分に支えているためと考えられます。
問1の解答例
60歳以上の金融資産は、図1からほぼ横ばいで推移していることがわかります。図2では、流動性預金や定期性預金が横ばいで維持されている一方、生命保険の額が減少しています。表1では、「老後の生活資金」を主な目的としつつ、「備え」や「安心」といった曖昧な理由で資産を保有している高齢者も多くなっています。実際には、年金や社会保障が生活資金を十分に補っており、高齢者の金融資産が減少しないと考えられます。(197文字)
問2の解説
問2の設問要求はアプローチAと同じですが、アプローチBでは「高齢者優遇の見直し」と「世代間格差の是正」をテーマとして考えます。
以下に、表1と図3から読み取れる内容を基に解説します。
表1から読み取る内容
高齢者が金融資産を保有する主な目的は「生活資金」であるものの、実際にはその多くが年金によって賄われています。
また、「備え」や「安心」といった漠然とした理由で資産を保有しているケースも多く見られます。
これにより、金融資産が多少減少したとしても、高齢者の生活水準が大きく損なわれる可能性は低いと考えられます。
図3から読み取る内容
若年層が結婚をためらう主な理由は、「挙式や新生活の準備費用」や「結婚生活のための住居」といった、経済的な負担にあります。これらの支出を賄うだけの資産を若年層が形成できていないことが課題です。
また、若年層は税や社会保障費の負担が重く、それが資産形成の妨げとなっていると推察されます。
問2の解答例
高齢者が保有する資産を若い世代に移転させる施策として、「高齢者に対する社会保障を縮小し、その分若い世代が支払う税や社会保障の負担を軽減することで手取りの収入を増やし、資産移転を促進する」という方策が考えられる。表1によれば、高齢者の金融資産の主な保有目的は「生活資金」だが、実際には年金で生活が賄われており、資産の額は減少していない。また、「備え」や「安心」といった明確な使途を伴わない目的で保有しているケースも多く、資産には余裕があるといえる。一方、図3では、若年層が「挙式や新生活の準備費用」や「結婚生活の住居費」といった資産不足を理由に結婚をためらっていることが示されている。現在、十分な資産を持つ高齢者が社会保障の恩恵を受ける一方で、資産が不足している若年層がその負担を背負っている構造は不公平であり、これが世代間格差を広げる原因となっている。そのため、社会保障を縮小し若年層の負担を軽減することで、資産の移転を促進し、世代間の不均衡を是正する施策が必要と考えられる。(438文字)
以上が、2025年度都立日比谷高校推薦入試小論文の「アプローチA」「アプローチB」に基づく解説です。
このテーマでは、高齢者が保有する資産をいかに若い世代に移転させるかという視点から、社会保障や世代間格差に対する考察が求められました。
解答を作成する際には、資料から正確にデータを読み取り、それに基づいて論理的に提案を展開することが重要です。
日比谷高校の推薦入試では、社会的な問題をテーマとした小論文が出題されることが多いため、日頃から社会問題に関心を持ち、自分なりの意見を深めておくことが大切です。
この記事を参考に、自分なりの視点で解答を考え、入試本番に向けて準備を進めてください。
健闘を祈っています!