都立日比谷高校 推薦小論文 2020年度入試(令和2年度入試)解説

このページでは、2020年1月に実施された都立日比谷高校推薦入試の小論文を解説します。

なお、事前に星進会の「教科別日比谷高校合格メソッド・小論文を読んで頂くと、以下の解説がスムーズに読み進められると思います。

こちらのページです。↓

また、ここで解説している問題は、日比谷高校のホームページで手に入れることができます。
http://www.hibiya-h.metro.tokyo.jp/SelectedEntrants/TestTheme.html
まだお持ちでない方は、このURLから入手し、一度自分の力で解いてみてから解説を読むことをオススメします。

小論文の解説では、知識・発想・文章について日比谷高校受験生のレベルに合わせることを意識しました。
つまり、この解説を読んだ日比谷高校受験生に「こんなこと知らないよ」「こんな発想できないよ」「こんな文章書けないよ」とは思わせないような内容にしたということです。
そうするとことで、この解説を読んだ皆さんが日比谷高校の推薦入試を受験する当日に実践できる「知識の活用法」「発想法」「文章作成法」を身につけられるはずです。


では、解説を始めます。

問1

単純多数決、決選投票付き多数決、ボルダルールのそれぞれに沿った決定がどうなるのかを問うている問題です。

ポイント
・それぞれの方法を正しく理解する
・数え間違いや計算ミスに気をつけて、正しく算出する
この2点に気をつけてください。

単純多数決

日比谷高校から与えられている文章にもある通り、単純明快な方法です。
クラス(日比谷高校ではルームと呼ぶらしい)一人ひとりが、何を1位に推しているかを数えるだけです。
日常的にも馴染み深い意思決定方法ですね。

レ・ミゼラブル:13票
アニー:14票
桃太郎:15票

ということで、単純多数決で選出される演目は桃太郎です。

単純多数決でが、クラス(日比谷高校ではルーム)全員の「どの演目が一番良いか」という意見が評決に反映されています。

決選投票付き多数決

1回目の投票ではすべての候補のなかから好きな選択肢に投票します。
そして、全体の過半数を獲得した選択肢がない場合には1位と2位の2つの選択肢で決選投票を行います。
全員で2つの選択肢のどちらかに投票します。得票が多い方の勝ちです。
日比谷高校から与えられている文章では、フランス大統領選挙が例に出されています。
私は、
・自民党総裁選
・ドラマ『白い巨塔』の第一外科教授選考
を真っ先に思い出しました。

1回目の投票

決選投票付き多数決の1回目の投票の結果は、単純多数決の投票と全く同じです。
したがって、
・全体の過半数(22票)を獲得した演目はなし
・1位の桃太郎と2位のアニーが決選投票に進出
となります。

決選投票

全員が桃太郎かアニーに投票します。
1回目の投票で桃太郎・アニーに投票した人は1回目と同じ演目に投票します。
1回目の投票でレ・ミゼラブルに投票した人は、決選投票でもう1度レ・ミゼラブルに投票することができません。
レ・ミゼラブルは既に「敗退」しています。
そこで、彼ら(レ・ミゼラブル派)は桃太郎かアニーのどちらかに投票します。
彼らの動向が勝負のカギを握るわけです。

13人いるレ・ミゼラブル派は、それぞれが2位に希望している演目に投票します。
数えましょう。


・2位が桃太郎:5人
・2位がアニー:8人

となります。
決選投票では、レ・ミゼラブル派のうち5人が桃太郎に投票し、8人がアニーに投票します。
1回目の投票の結果と合わせると、決選投票では

・アニー:14+8=22票
・桃太郎:15+5=20票

ということで、決選投票付き多数決ではアニーが選出されます。

決選投票付き多数決では、クラス(日比谷高校ではルーム)全員の「どの演目が一番良いか」という意見に加えてレ・ミゼラブル派の「どの演目が二番目に良いか」という意見が評決に反映されています。

ボルダルール

全員の投票を、
・1位の演目:3点獲得
・2位の演目:2点獲得
・3位の演目:1点獲得
として計算します。

図2で与えられている表を完成させましょう。

ABCDEF
人数6人9人6人8人5人8人
1位桃太郎桃太郎アニーアニーレ・ミゼラブルレ・ミゼラブル
2位アニーレ・ミゼラブル桃太郎レ・ミゼラブル桃太郎アニー
3位レ・ミゼラブルアニーレ・ミゼラブル桃太郎アニー桃太郎

となります。

これを使って、各演目が獲得する点数を計算していきましょう。

桃太郎

1位:6+9=15人(AとB)
2位:6+5=11人(CとE)
3位:8+8=16人(DとF)
⇒15×3+11×2+16×1=83点

アニー

1位:6+8=14人(CとD)
2位:6+8=14人(AとF)
3位:9+5=14人(BとE)
⇒14×3+14×2+14×1=84点

レ・ミゼラブル

1位:5+8=13人(EとF)
2位:9+8=17人(BとD)
3位:6+6=12人(AとC)
⇒13×3+17×2+12×1=85点

以上の結果より、ボルダルールではレ・ミゼラブルが選出されます。

ボルダルールでは、クラス(日比谷高校ではルーム)全員の「どの演目が一番良いか」という意見に加えて全員の「どの演目が二番目に良いか」という意見が評決に反映されています。

解答例
42人の投票の結果、単純多数決では桃太郎が、決選投票付き多数決ではアニーが、ボルダルールではレ・ミゼラブルが選出される。(60字)

感想
問2のヒントを与え、難易度を下げるための設問だと思います。
おそらく問2単独だと難しすぎるのではと日比谷高校が判断したんでしょう。
各選出方法の最後に書いたように、それぞれの選出方法において「誰のどのような意見が選出に反映されているか」を意識できると良いです。

問2

設問文の条件をみていきましょう。
・上記3種類のどの意思決定方法を採用するかを述べる
・その理由を答える
・採用しなかった2つの意思決定方法の劣っている点を具体的に述べる
・上記を500~540字で行う
という設問条件です。

この問題をみて一番最初に考えてほしいことは、
「どうやって中学で習ったことに関連させようか
ということです。
日比谷高校は都立高校なので、公立中学校で教えていることから大きく逸脱した問題を出題しないと考えられるからです。

「環境問題」「資源・エネルギー」といったテーマであれば関連させる知識が分かりやすいのですが、今回はちょっと思いつきづらいですね。
以下の内容を思い出してほしいです。

①効率と公正

関連付けてほしいのは、社会の公民で学んだ「効率と公正」の部分です。
具体的には、
解決策が、みんなが納得できるものになっているかどうかの判断をするときの考え方として、
・効率:時間や労力のムダがないか
・公正:全員が対等な立場で意思決定に参加できているか
という2つのものがあります。
これを活用しましょう。

②決定の仕方

公民の教科書には、意思決定の方法について具体的に言及されている部分もあります。
そこには、
・全会一致:みんなが納得するが、決定に時間がかかることがある(≒公正だが効率が悪い)
・多数決:一定時間内に決定できるが、少数意見が反映されにくい(≒効率的だが公正でない)
と書いてあります。

この問題で与えられている「単純多数決」「決選投票付き多数決」「ボルダルール」は、いずれも「多数決」のような形式です。
どの方法が、多数決の欠点である「少数意見が反映されにくい」を克服しているでしょうか。
言い換えると、どの方法が最も少数意見を尊重しているといえるでしょうか。
それを答える問題です。

③選挙制度

公民の「現代の民主政治」の単元では選挙制度を扱っています。
選挙制度というのは、「候補者のなかからどうやって議員になる人を選ぶか」という意思決定の方法です。
どのような選挙制度にどのような特徴があるのでしょうか。
・小選挙区制:1選挙区から1名の代表者を単純多数決で選出する。死票が多く、少数意見が反映されにくい。
・比例代表制:各政党の得票率に応じて議席を配分する。死票が少なく、さまざまな意見が反映されやすい。
とあります。

ここで意識してほしいのは、「単純多数決=死票が多く、少数意見が反映されにくい。」という点です。
これを活用しましょう。

以上の中学での学びを活用して各意思決定方法を比較してみましょう。

各意思決定方法の比較

公正の観点

公正の観点からは、「最も少数意見を反映しているといえる意思決定方法を選ぶ」ことが求められています。
では、この問題における「少数意見」とは、何でしょうか。

・単純多数決の場合:2位と3位になっている「アニー派」と「レ・ミゼラブル派」の意見です。
単純多数決では、それら少数意見をすべて無視していますね。

・決選投票付き多数決の場合:2位と3位になっている「桃太郎派」「レ・ミゼラブル派」の意見です。
この場合、「レ・ミゼラブル派」の「どれが2位か」という意見を聞いて決選投票の勝ち負けが決まっています。
よって、「少数意見が完全に無視されている」とはいえません。その点で、単純多数決よりは好ましいですね。
その一方で、「レ・ミゼラブル派」の少数意見しか反映されていません。「桃太郎派」の少数意見は無視です。
この点に課題がありますね。

・ボルダルールの場合:2位と3位になっている「アニー派」と「桃太郎派」の意見です。
この場合、「アニー派」と「桃太郎派」が2位をどの演目にしたのかが得点(2点獲得)というかたちで意思決定に反映されています。ということは、「少数意見が反映されている」といえますね。

効率の観点

効率の観点からは、「時間、労力、費用の無駄がないかどうか」を考えます。
この問題においては、
クラスで東京をすることに費用はかかりません。
労力・時間に関しては
・単純多数決は投票が1回で済み、1位だけ数えればよいので時間がかからず労力が少ない
・条件付き多数決は投票が2回必要で、それぞれ1位だけ数える。単純多数決よりは労力と時間がかかる
・ボルダルールは投票は1回で済むが、1位・2位・3位をすべて数えるので単純多数決より労力と時間がかかる。
⇒投票が1回で住んでいるので、投票用紙を配る・全員に記入をしてもらう・投票用紙を集める・集計するといった動作が1回で済む。ボルダルールは条件付き多数決よりは労力と時間がかからないと考えられる。

「公正」と「効率」のどちらか、あるいは両方の観点から意見を述べていきます。
私は、今回は「公正」の観点から選ぶほうが良い(日比谷高校からの評価が高い小論文が書ける)と考えています。
なぜならば、決めるのが文化祭の演目だからです。
文化祭の演目は、決めた後に皆で準備や練習をしなければなりません。
そのとき、全員が積極的に参加してくれたほうがよい演劇ができるはずです。
したがって、決まった演目に全員が(できるだけ多くの人が)納得してくれているほうが良いと考えます。

以上の分析を踏まえて小論文を書いていきます。

1:どの意思決定方法を採用するかを述べる

 私は、このクラスの演目を決定する際に上記3種類の方法の中からボルダルールを採用する。(42字)

2: その理由を答える

3: 採用しなかった2つの意思決定方法の劣っている点を具体的に述べる

私は「公正」という観点で3つの方法を比較する。ここでの「公正」とは、全員が対等な立場で意思決定に参加できていることである。「公正」を重視するのは、クラス全員の納得感を重視したいと考えるからだ。決めるのは文化祭の演目である。ということは、演目を決めることがゴールではない。演目を決めたときから文化祭本番に向けた準備が始まる。私は、なるべく多くの人が高いモチベーションで準備に参加できる状態をつくりたい。そこで、「公正」であることを重視すべきだと考えている。
 上記3種類の中で最も「公正」である、つまり最も少数意見を反映している意思決定方法はボルダルールであると考えている。単純多数決は1位である桃太郎以外に投票した人の意見を全く反映していない。また、決選投票付き多数決は決選投票の場では1回目にレ・ミゼラブルに投票した人の意見を反映しているがそれ以外の少数意見は反映されてない。これらに対し、ボルダルールは1位だけでなく2位を何にしたのかを得点というかたちで意思決定に反映している。したがって、少数意見も含めた全員の意見が意思決定に反映されていると考える。(477字)

4:500~540字で書く

字数を調整しましょう。

  私は、上記3種類の方法の中からボルダルールを採用する。私は「公正」という観点で3つの方法を比較する。ここでの「公正」とは、全員が対等な立場で意思決定に参加できていることである。「公正」を重視するのは、クラス全員の納得感を重視したいからだ。決めるのは文化祭の演目である。ということは、演目を決めることがゴールではない。演目を決めたときから文化祭本番に向けた準備が始まる。私は、なるべく多くの人が高いモチベーションで準備に参加できる状態をつくりたい。そこで、「公正」であることを重視すべきだと考えている。
 上記3種類の中で最も「公正」である、つまり最も少数意見を反映している意思決定方法はボルダルールであると考えている。単純多数決は1位である桃太郎以外に投票した人の意見を全く反映していない。また、決選投票付き多数決は決選投票の場では1回目にレ・ミゼラブルに投票した人の意見を反映しているがそれ以外の少数意見は反映されてない。これらに対し、ボルダルールは1位だけでなく2位を何にしたのかを得点というかたちで意思決定に反映している。したがって、少数意見も含めた全員の意見が意思決定に反映されていると考える。
 以上より、私はボルダルールを採用する。 
(521字、27行)

これを今回の解答例とします。

感想
「どの方法で決めるべきか」という設問に対し、どのような論理的な根拠を示すのかという問題です。
リーダーとして、「決めたあとのことを考える」ことが大事なのかなと思いました。
もちろん、中学で習ったことに関連付けるのが最重要ですが。
公民の中でももっとも入試に出題されていない「公正」「効率」をもってきたあたりが、さすが日比谷高校ですね。

今回は以上です!

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