都立日比谷高校 推薦小論文 2023年度入試(令和5年度入試)解説

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このページでは、2022年1月に実施された都立日比谷高校推薦入試の小論文を解説します。

なお、事前に星進会の「教科別日比谷高校合格メソッド・小論文」を読んでいただくと以下の解説への理解度が高まると思います。

また、ここで解説している小論文の問題は日比谷高校のホームページで入手することができます。

まだお持ちでない方はこのURLから問題を入手し、一度解いてみてから解説を読むことをお勧めします。

小論文の解説では、知識・発想・文章について日比谷高校受験生のレベルに合わせることを意識しました。
マニアックすぎる知識や突飛すぎる発想に基づいた解説にしてしまうとこの記事の存在価値がなくなるからです。
皆さんが当日に実践できる「知識の活用法」「発想法」「文章作成法」が身につく記事になっています。

では、解説を始めます。


令和5年度・2023年度入試で日比谷高校が小論文テーマに選んだのは「少子高齢化」でしたね。
平成29年度に社会保障について考える問題のなかで「これからの日本」についても考える必要があり少子高齢化にも触れることとなりました。
また、平成30年度に水資源についての問題のなかで「日本の今後予測される変化」を説明せよという指示のなかで人口減少について触れる必要がありました。
日本の少子高齢化・人口減少についてはこうした形でサブ的に触れられることはありましたが過去7~8年間は「主役」になることはありませんでした。
ベタなテーマなので避けられていたのでしょうか。
あと出しになりますが、実は私はこのテーマ(地方が抱える少子高齢化という問題)の出題を2023年度入試における「3大予想テーマ」の1つにしていました。
(予想の方法論は確立されています。 https://hibiya-goukaku.com/method/essay/ の「おまけ②」に書いてあります。興味がある方はぜひご覧ください。)

Contents

問1

日比谷高校推薦入試の小論文では、設問の要求に正しく答えることがとても重要です。
この設問の要求は以下の通りです。
・地方の一部の鉄道で赤字が続いている理由
・図2を参考にする
・図3も参考にする
・200字~240字で述べる

以上の要求があります。
例年に比べて要求の数が少ないです。
少ない要求で、240字という字数を無駄にすることなく濃い内容を書く必要があります。
要求が多ければ、その要求に応えていれば自然と字数が埋まります。
要求が少なければ、一見すると「ラク」に感じるかもしれませんが実際は何を書くべきかを自力で考えなければならず非常に難しいです。

「自力で考えなければならず」と書きましたが、実際には「図2と図3を参考にして」とありますので図2と図3から読み取った情報を踏まえることが必須になります。
自由になんでも考えてよいわけではありません。
というわけで、図2と図3をそれぞれ見ていきましょう。

図2

JR東日本の営業区域に含まれる各都県の人口の1995年から2021年にかけての変化を示した表です。
図1が1987年から2021年の変化になっているので時間軸が一致していないのが気になるところですが、この人口の変化を読み取る必要がありそうです。

・総数:図1で与えられた区間が属する県は減少している(減少幅を数値で示したいが各県バラバラ。およそ10~20%の減少としてよさそう。)
・0~14歳:総数と同様に、図1で与えられた区間が属する県は減少している(減少割合は総数より大きい。青森・秋田あたりに注目して「50%近く減少している県もある」と述べておくとよさそう)
・15歳~64歳:図1で与えられた区間が属する県は減少している(0~14歳に合わせて青森・秋田あたりに注目すると減少割合を「40%ほど減っている県もある」と表現してよさそう)
・65歳以上:増えている(こちらも青森・秋田あたりに注目して「1.5倍くらいに増加している県もある」としてよさそう)

ということで、
「1995年から2021年にかけて65歳以上人口は増加したが、15歳~64歳人口は県によっては40%ほど0~14歳は県によっては半減していて総数は10~20%ほど減少した。」

ということがわかります。
人口が減少すれば、当然鉄道に乗る人の数も減ると考えられますのでこれは「理由」になりそうです。

図3

自家用乗用車についてのグラフです。
自家用乗用車は鉄道と同じく移動手段・交通手段・輸送手段です。
つまり、自家用乗用車で移動する人が増えれば鉄道で移動する人が減るという方向性で「理由」を説明できそうだとわかります。
詳しく見ていきましょう。

どちらのグラフも昭和50年から令和3年までの変化が書かれています。
ここでは、時間軸を図1と一致させるために昭和62年(1987年)から令和3年(2021年)の変化に注目することにします。

・自家用乗用車保有台数:3000万台近くから6000万台近くに倍増している
・世帯当たり普及台数:0.8から1に増加(「一家に一台」)

ということで、
「図1と同じ1987年度から2021年度にかけて自家用乗用車保有台数は3000万台近くから6000万台近くに、世帯当たり普及台数は0.8から1くらいに増加したことから自家用乗用車の普及が進んだといえる。」

ということがわかります。
自家用乗用車が普及すれば、当然鉄道に乗る人の数も減ると考えられますのでこれは「理由」になりそうです。

図2と図3

他の年度の解説でも言っていますが、日比谷高校の推薦小論文では図と図を組み合わせて何かを読み取る・解釈することが非常に重要です。
今回はどう組み合わせれば良いでしょうか。

まず、気になってほしいのは
図1:平均通過人員はだいたい70~90%減っている
図2:人口の総数は10~20%しか減っていない
図3:世帯当たり普及台数は0.8から1に増加(25%の増加)

⇒単に「人口が減ったから」「自動車が普及したから」というだけでは説明できないほど平均通過人員が減少している

ということです。

他の要因、他の説明を図2と図3を組み合わせて考える必要があります。

ここで意識したいのが、私が日比谷高校の推薦小論文を解説する際に必ず強調している
「日比谷高校の推薦入試では3年間で学習した(はずの)知識を活用することが求められる」
ということです。

皆さんは、「鉄道での移動」について3年間の学習のうちどこかで触れましたでしょうか。
触れたとすれば、地理ですね。
千葉県や奈良県は昼夜間人口比率が低い⇒それは近くの大都市圏(東京や大阪)に鉄道などで通勤・通学している人が多いから
という文脈で登場したのではないかと思います。

電車で通勤・通学するのはどの年齢の人たちでしょうか。
そう、15~64歳です。
また、0~14歳のうち中学生は通学をするかもしれません。

図3の要素、つまり自動車のことも考えていきましょう。
自動車は自分で運転する必要があります。
それに対し、鉄道はお金を払って乗車すればあとは何をしていても目的地の駅まで着きます。
よって、自動車は短距離の移動、鉄道は中距離の移動に向いています。
(遠距離の移動になると鉄道のなかでは新幹線、ほかに飛行機が向いていますね。)

65歳以上の高齢者が移動するとしたら買い物や病院への通院がメインになりそうですね。
これらは近距離の移動が多そうです。

よって、
「特に、通勤・通学で鉄道を利用していた15~64歳の人口が大きく減少した」「高齢者の人口は増えたが、彼らは通勤・通学をしない世代であり乗用車での近距離移動が主であるため鉄道を利用しない」を「理由」にできそうです。

出そろった材料を文章にする

材料は出そろったようです。
あとはこれを240字以内にまとめるだけですね。
240字以内とはいっても、なるべく240字に近いほうがいいです。
日比谷高校側は、「この問題には240字くらい書くことがある」と思って字数を設定しているからです。
200字しか書くことがないのであれば、それは40字分の「発想の不足」があるということです。

まず、字数を気にせずに書いてみます。

図2から、1995年から2021年にかけて65歳以上人口は増加したが、15歳~64歳人口は県によっては40%ほど0~14歳は県によっては半減していて総数は10~20%ほど減少した。人口の減少が鉄道の利用者数減少につながり鉄道赤字の理由となっている。図3から、図1と同じ1987年度から2021年度にかけて自家用乗用車保有台数は3000万台近くから6000万台近くに、世帯当たり普及台数は0.8から1くらいに増加したことから自家用乗用車の普及が進み、鉄道の利用者数が減ったことが赤字の理由となっている。また、特に、通勤・通学で鉄道を利用していた15~64歳の人口が大きく減少したことが鉄道赤字の最大の要因といえる。(306字)

高齢者の近距離移動のくだりは、すでに字数を超過していたので割愛しました。
それでも60字ほど字数オーバーです。
不要な部分を削りましょう。

図2から、1995年から2021年で15歳~64歳人口は約40%ほど減少し、0~14歳は半減の県もあり総数は10~20%ほど減少した。これによる鉄道の利用者数減少が鉄道赤字の理由だ。図3から、図1と同じ1987年度から2021年度で自家用乗用車保有台数は3000万台近くから6000万台近くに、世帯当たり普及台数は0.8から1に増加した。自家用乗用車普及による鉄道の利用者数減少が鉄道赤字の理由だ。また、通勤・通学で鉄道を利用する15~64歳の人口の減少が鉄道赤字の最大の要因だ。(240字)

内容は減らさず、表現の工夫をして字数を減らしました。
字数削減前後の文面を比較することで、内容を減らさずに字数を減らす方法を学んでもらえればと思います。

問2

他の年度に比べ、きわめて自由度が高い設問です。
・地方が抱えている問題の事例を1つ挙げる
・どのような点が問題になっているかを具体的に述べる
・問題を解消する方法を具体的に書く
・340字~400字で書く

以上の条件です。
何について書くか、というのが最大の関門なのですが
問1でも示されている「少子高齢化」と関連させて考えればわかりやすいです。

少子高齢化関連として例えば、
・出生率低下
・税収減少
・空き家増加
・労働力不足
・特定の業界や伝統などの後継者不足

といったものが挙げられます。

少子高齢化とは関係ない切り口もあるかもしれませんが、私は上記のどれかで書くのが「書きやすさ」という面で良いと思います。

自由度が高い問題なので、解説はこのくらいです。
あとできることは、解答例を示すことくらいですね。

地方が抱えている問題に、出生率の低下がある。これは少子高齢化をますます進行させ、中長期的に公共交通機関の赤字問題だけでなく生産年齢人口の減少による税収減少や社会保障制度の維持が困難になるなどの様々な問題を引き起こす根本的な要因となっている。これを解消する具体的な方法として、待機児童問題の解消のための保育所増設や子どもが体調を崩したときにも預けられる施設の増加といった働きながら子育てのしやすい環境を整備することが挙げられる。また、子育て世代が都市部から移住したくなるような施策も必要だ。具体的には、学費や医療費など子育てにかかる費用を無償化することが方法として考えられる。(288字)

書きました。
が、お気づきの通り字数が足りません。
字数を気にせずに書いて「まだ何か書かなければいけない」となることは私は滅多にありません。
一通り、書かなければならないだろうということは書いてしまいました。
ではどうするか。
どのような点が問題となっているか、どういう解決策があるのかの具体例を増やすしかありません。

地方が抱えている問題の事例の一つに、出生率の低下がある。これは少子高齢化をますます進行させ、中長期的に公共交通機関の赤字問題だけでなく生産年齢人口の減少による税収減少や社会保障制度の維持が困難になる、空き家が増加するなどの様々な問題を引き起こす根本的な要因となっている。これを解消する具体的な方法として、待機児童問題の解消のための保育所増設や子どもが体調を崩したときにも預けられる施設の増加といった働きながら子育てのしやすい環境を整備することが挙げられる。また、子育て世代が都市部から移住したくなるような施策も必要だ。具体的には、学費や医療費など子育てにかかる費用を無償化することが方法として考えられる。また、子育て世代が快適に住みやすい住環境の実現を移住者に対する補助金などによって手助けすることも解消する方法として挙げられる。(366字)

字数上限が400字ですので、まだ書くべきかもしれませんし書こうと思えば書けるのですがこれ以上は蛇足感があるので書かないことにします。

ほかの年に比べて自由度が高いため、この解答例以外の切り口がたくさんあります。

あなたの書いたものがどうであるかどうか、一人でも多くの人に読んでもらい評価をしてもらうことで確認しておくとよいと思います。

今回は以上です。
他の年度のものもぜひお読みください。

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