このページでは、2024年1月に実施された都立日比谷高校推薦入試の小論文を解説します。
なお、事前に星進会の「教科別日比谷高校合格メソッド・小論文」を読んでいただくと以下の解説への理解度が高まると思います。
また、ここで解説している小論文の問題は日比谷高校のホームページで入手することができます。
まだお持ちでない方はこのURLから問題を入手し、一度解いてみてから解説を読むことをお勧めします。
小論文の解説では、知識・発想・文章について日比谷高校受験生のレベルに合わせることを意識しました。
マニアックすぎる知識や突飛すぎる発想に基づいた解説にしてしまうとこの記事の存在価値がなくなるからです。
皆さんが当日に実践できる「知識の活用法」「発想法」「文章作成法」が身につく記事になっています。
では、解説を始めます。
令和6年度・2024年度入試で日比谷高校が小論文テーマに選んだのは「関東大震災」「防災」でしたね。
令和5年度が「少子高齢化」という有名なテーマでしたので、その反動もあり「関東大震災」というニッチなテーマが選ばれたのかなという感じです。
テーマがニッチな分、各問いには丁寧な誘導がついていて文章が書きやすくなっています。
実際、受験生の平均点は高かったようです。
問1
どの年度の解説でも触れている通り、日比谷高校推薦入試の小論文では、設問の要求に正しく答えることがとても重要です。
この設問の要求は以下の通りです。
①関東大震災における甚大な被害が主に何によるものであったかを述べる
②被害が広がった原因を3つ挙げる
③①②の際に図1~図4を読み取る
④140字~160字で書く
以上の要求があります。
これらについて短い字数で書かなければなりません。
制限字数が少ないと、余計なことを書いてしまうと必要なことが書けなくなってしまいます。
図1~図4から読み取れることを中心に文章を構成していきましょう。
図1
震災発生の12時間後に元衛町では風が強くなり、品川では逆に風が弱まったことがわかります。
また、元衛町では風が東向きに吹き、品川では風が北向きに吹いていたこともわかります。
図2
関東大震災による東京市15区の被害は
・東部の本所区・深川区・浅草区で特に大きかった
・死者の死因のほとんどは火災(焼死)だった
ことがわかります。
図3
図2で注目した火災の出火原因が示されています。
・竈(かまど):料理に使う
・七輪:料理に使う
・ガス:料理に使う
・火鉢:お湯を沸かす⇒料理に使う
ここで、リード文に注目します。
関東大震災が発生した時刻が示されています。
午前11時58分です。
ちょうどお昼時ですね。
各家庭で昼食をつくっていたタイミングだったため、上記のような出火原因での火災があちこちで発生したと考えられます。
図4
人口密度について、
関東大震災当時の東京市15区>東京都23区
であることが示されています。
これを図2で読み取った火災による被害と結びつける必要があります。
ここで意識したいのが、私が日比谷高校の推薦小論文を解説する際に必ず強調している
「日比谷高校の推薦入試では3年間で学習した(はずの)知識を活用することが求められる」
ということです。
今回は、「現在の東京では土地の垂直利用(高層マンションを建てることで空間を縦方向に拡張すること)が進んでいる」という知識を使います。
関東大震災当時は、現在の東京とは異なり土地の垂直利用がほぼありません。
つまり、人々はほぼ1階建ての平屋に住んでいました。
その条件で現在よりも人口密度が高いのですから、住宅の密度は現在よりもはるかに高いと考えられます。
この点への言及ができたかどうかが、今回の得点の優劣を決定づけたのではないかと思います。
図1と図2
他の年度の解説でも言っていますが、日比谷高校の推薦小論文では図と図を組み合わせて何かを読み取る・解釈することが非常に重要です。
今回は図1と図2を組み合わせます。
図1:元衛町(現在の大手町1丁目付近)で東向きの風が強かった
図2:東京の東のほうで被害が大きかった
この2つを組み合わせて
「主に東部において火災の火が東向きの風に吹かれて拡大していった」
ことがわかります。
出揃った材料を文章にする
材料が出揃いましたので、これを140~160字の文章にします。
図4からわかるように現在の東京よりも住宅の密度が高かったこと、図3からわかるように震災の発生がお昼時であり各家庭で竈や七輪を用いて昼食の準備をしていたこと、図1からわかるように震災発生日の夜に主に東部において東向きの強い風が吹いていたことが原因で図2からもわかるように東部を中心に火災による甚大な被害が発生した。(156文字)
いつも字数を切り詰めるのが大変ですが、今回は字数に余裕がありました。
問2
前年度の問2に比べると、自由度がかなり低くなっていると感じます。
図を参考にすると、発想の方向性がかなり限定されるイメージです。
まずは設問条件を整理します。
①新しい地図記号を考えること
②その地図記号が意味するものについて述べる
③そのデザインにした理由を述べる
④その地図記号が加わることの社会的意義を述べる
⑤①~④の際に図5~図8を参考にする
⑥400字~440字で書く
①~④だけならかなり自由度の高い問題なのですが、⑤があるので発想の方向性が限定されます。
そのため、図をきちんと読み取れば非常に書きやすい問題となっています。
まずは図の読み取りからやっていきましょう。
図5
代表的な地図記号とその由来が説明が紹介されています。
ここからわかることは、「地図記号には分かりやすい由来がある」ということです。
これは③を考える際のヒント(というより制約)になっています。
図6
134番目、つまり現行の地図記号のなかで最新のものが「自然災害伝承碑」であることとその地図記号が紹介されています。
図7
日比谷高校の近くにある自然災害伝承碑の情報が紹介されています。
図8
自然災害伝承碑の意義について書かれています。
・自然災害の様子や教訓が書かれている
・過去の自然災害の教訓をお伝えする
・教訓を踏まえた的確な防災行動による被害の軽減を目指す
ということがわかります。
これらを参考にしてアイデアを出し、文章を書かなければなりません。
図5~図8の内容を無視できないので、新しい地図記号として例えば「インスタ映えするスポット」を提案することはできません。
ではどうすればいいかというと、「防災に関する建造物・エリア」の地図記号を提案することになります。
そうすれば図8の内容が活かせますし、図6・図7との関連性をもたせることもできます。
具体的には「避難所」「防災センター」といったものを提案するとよいでしょう。
解答例
地図記号:(丸の中に12時・3時・6時・9時の四方向から中心に向かって矢印が集合する形)
文章
私は135種類目の地図記号として「避難所」の地図記号を考えた。これは災害時に住民が一時的に安全を確保するために避難できる場所を指す地図記号である。避難所では基本的な生活必需品や医療サービスが提供される場合もあり、災害時に地域住民が生命と安全を守るための重要な拠点となる。このデザインにしたのは、災害時に複数の方向から住民が避難所に集まる様子を象徴的に表現したかったからだ。この地図記号が加わることで、住民や観光客が地図を使って迅速かつ確実に避難所を見つけられるようになる。現代の日本では災害の頻度と規模が増加しており、災害時の迅速な対応が求められている。特に、土地勘のないインバウンド旅行者や地域外の人々にとっては明確な地図記号で避難所の場所が示されていることは迅速な避難の実現につながる。また、この地図記号の導入は地元住民が避難所の場所を意識する機会を増やし、防災意識の向上にもつながる。(395文字)
今回は以上です。
他の年度のものも是非お読みください。