この記事では、2024年2月に行われた日比谷高校一般入試の国語大問3(小説、物語文)を解説します。
日比谷高校の一般入試では、国語や数学、英語は自校作成問題での試験が行われます。
自校作成問題はその学校を受験しにくる生徒のレベルに合わせた難易度となります。
したがって、日比谷高校の自校作成問題は都立の共通問題や他校の自校作成問題と比べても難しい問題であることが多いです。
この記事は、日比谷高校の自校作成問題を対策するにあたって
「本文をどのように読み進めていけばいいのか」
「どのような手順で選択肢を選んでいけばいいのか」
「記述問題を書くとき、どのような思考回路で書く内容を決めればいいのか」
といったことを知りたい人向けに書きました。
ですので、この記事を読んでもらえれば上記のことを過去問解説を通して理解していただけます。
その際、
事前に自力で問題を解いてからこの解説記事を読む
ことを強くオススメします。
ここで解説している国語の問題・答案用紙・解答は日比谷高校のホームページから入手することができます。
なお、事前に星進会の「教科別日比谷高校合格メソッド・国語」を読んでいただくと以下の解説への理解度が高まると思います。
では、解説を始めます。
本文解説
前文
この問題には前文があります。
ここを活用して、主人公の境遇を理解しておきましょう。
銀行をやめ、陶芸を選んだ
主人公は銀行員から陶芸家に転職したようです。
依頼主の要望に応えるやり方が自身の持ち味
主人公の陶芸家としての長所、個性を私たちに伝えています。
同業者との対比
「伝統」(同業者)⇔「自由すぎる気風」(光義)
この対比に注目します。
主人公は、業界の伝統にとらわれていない人物のようです。
自分はそれでいい
光義のこだわりを伝えています。
「使う人間に添ったものを作る」というこだわりです。
自分の裡からの声
「俺には芯がない」という声です。
光義は依頼主の要望に応えた作品を作ります。柔軟です。
自分が作りたいものを作るという職人気質なこだわりはありません。
それを、「芯がない」と感じているようです。
柔軟さこそが光義をゆっくりと蝕む
自分の柔軟さを「芯がない」と感じていることが、光義自身を苦しめているようです。
俺にはあんな熱がない
迸る情念を作品にぶつけている同業者、芯のある同業者を羨ましく思っているようです。
出口はますます遠のいた
光義が悩んでいることがわかる描写です。
詳細は問2で解説します。
腹に抱えた想い
光義が引き続き悩んでいることがわかります。
気晴らし
悩みを解決するための外出ではないことがわかります。
動物の姿が印象的
光義が動物の姿から何かを感じたようです。
我々は、それが何なのかを読み取らなければなりません。
思わずそう口にした
気晴らしの外出ですから、光義は悩みやその解決に関係する気づきがあるとは思っていません。
なので、印象的な事柄があったのは意外だったわけです。
「気晴らし」という表現を読み落とした読者でもそう感じられるように、「思わず」と書いてくれているようです。
秘めた拘り
光義の同業者が持っていて光義が持っていないものですね。
足取りの軽い芳美
光義は悩んでいますので足取りは軽くないです。
そのことを遠回しに私たちに伝えています。
深く考えずに
光義は悩んでいますので、レストランのオーダーに意識が向いていないようです。
量産品
量産品には個性がありません。
自分の個性の無さを悩んでいる光義には、量産品が自分と重なるのかもしれません。
窘めるような妻の視線
気晴らしの外出なのに料理と仕事のことを結びつける発言をした光義を奥様はよく思っていないようですね。
少し頭痛がする
光義の悩み・苦しみが伝わってきますね。
あまり重く受け止めていない妻
そんな光義の様子を、奥様は深刻に受け止めていないようです。
規則正しい並び/同じ規格の量産品
上述の「量産品」と同様です。
見る者に全ての印象を委ねるような、どこか空虚な眼差し
さきほど明確に語られなかった、動物から受けた印象がこれです。
自分の新しい作風を作ることが怖い
光義は新しい挑戦を怖がっているようです。
馬鹿正直に構えすぎる自分が、今はすごく疎ましい
失敗そのものや失敗して誰かに迷惑をかけることを心配し、リスクを警戒し構えて一歩を踏み出せない自分に対する嫌悪感を表現しているようです。
「規格通り」⇔「自分の中にある声」/いずれでもない
・個性のまったくない量産品
・他人のことは考えず、自分のこだわりだけをぶつけた作品
光義は、今の自分はどちらでもない中途半端な状態だと考えています。
自分のこだわりをぶつけた作品をつくりたいものの、失敗を恐れて実行できずにいるということです。
土をいじることもやめればいいのではないか?
悩みが深まり、陶芸家としての引退も考えるまでになっているようです。
悩みの深さを伝えていますね。
迷い
自分のこだわりを全面に押し出した作品を作るかどうかの迷いです。
あなたは本当に馬鹿
ここだけ見ると単なる悪口のようですが、単なる悪口を発言するような人物のいる作品が出題されることはほぼないのでこの発言の真意を読み取る必要があると考えましょう。
あなたきっと土をいじると思う/上手いか下手かにかかわらず
光義の陶芸への想いの強さ、上手い・下手にはこだわっていないことを伝えています。
失敗(つまり良い作品がつくれないこと)を恐れている光義にとって、「上手い・下手にかかわらず」というのは響く言葉のはずだと考えます。
何かに責任を負う(中略)そんな立場じゃないはず
ここまで上記の読解を積み重ねていれば、この発言は「なんの責任もないんだから、好きに挑戦したらいいじゃない」
と言っているのだとわかります。
好きにやるしかないじゃない
予想が確信に変わります。
やはり妻は光義の背中を押してあげているようです。
夫婦の絆を感じますね。
このあとの設問で「夫婦仲の悪さ」に言及している選択肢を選んだ人は反省してください。
あなたなんて所詮あなたでしかない
あまり深く考えずに読んでいると、「所詮」という言葉に引っ張られてこれが悪口だと勘違いした人がいるかもしれません。
しかし、これまでの解説を踏まえればこれが悪口ではないことが分かりますね。
背中を押している、という流れのなかでの発言なので
「たとえ失敗したとしてもあなたはあなた。だから失敗を恐れずに挑戦してみなさい」
という真意に基づく発言であると分かります。
大層な立場じゃない/中途半端な有り様で死んでも、いい
奥様の発言を受け入れ、光義も挑戦に前向きになっていることが分かります。
わしわしと行儀悪く飯を口に流し込み始めた
それまで悩みからメニュー選びを深く考えず、食事も進んでいなかった光義が一心不乱に食事をしています。
これは、悩み・不安がなくなったことを示してます。
挑戦する決意がついたようですね。
自分のための作業
光義は挑戦を開始したようです。
めでたしめでたし。
設問
問1
自分の裡からの声:「自分には芯、こだわり、迸る情念がない」という声です。
したがって、「芯」「こだわり」「情念」やその言い換えとなることばを探しながら選択肢を読むことになります。
ア:依頼主の要望を忠実に再現する作品づくりに専念するべき⇒×
イ:熱情に足りないものがある⇒◯
ウ:作品づくりに対する熱意が薄れていき⇒×
エ:自分の才能の平凡さ⇒×
問2
「出口」:悩みの解決です。具体的には、個性を全面に押し出した作品をつくりたいが失敗するのが怖いという悩みです。
「ますます」:変化を示しています。変化のきっかけは、「同業者の作品展や同業者との情報交換の場に行かなくなった」ことです。
これにより、彼らが持つ情念、こだわりを吸収する機会を逃してしまったことがわかります。
「遠のいた」:悩みの解決が難しくなったということです。
これらをまとめると、問2の解答例が出来上がります。
同業者の作品展や情報交換の場に行かないので情念に基づいて作品を作る者から刺激を受けられず、依頼主の要望ではない作品を作れないという悩みの解決が困難になったこと。
例えばこんな感じです。
80字です。
問3
動物の姿から感じた印象は、傍線部前後ではなくかなり後に書かれています。
「見る者に全ての印象を委ねるような、どこか空虚な眼差し」ですね。
時短または読解のコツと称して傍線部前後だけを読んで解く人が正解できないように作られている問です。
ア:「空虚な眼差し」(上記参照)「強いこだわり」「情念」(この文章全体のキーワード)⇒◯
イ:「見るものに対し挑むような眼差し」⇒×
ウ:「寓意的に」⇒×
エ:「政策の刺激になれば」⇒気晴らしで出かけています⇒×
問4
悩みから光義が食欲を失っていることがわかる描写です。
悩みの内容は問2の解説や本文解説を参照してください。
ア:「絵の価値」「実用品」「及ばない」⇒×
イ:「新しい作風のイメージをつかめた」⇒×
ウ:「陶芸という道を選んだことが誤りだった」「後悔」⇒×
エ:「自信がもてず重苦しい気持ち」⇒◯
問5
この行動の前後で、奥様の芳美は光義の背中を押しています。
ということは、この行動もその意図で行われていると判断します。
ア:「自分の怒りを伝えようとしている」⇒×
イ:「前に進む勇気をもたせようとしている」⇒×
ウ:「すっかりあきれ果て」⇒×
エ:「何も言わずに」⇒直後で発言しています⇒×
問6
本文の表現・内容についての問題です。
本文解説を思い出しながら考えてみてください。
ア:「三人称語り」「視点人物は光義」「彼の揺れ動く心情」⇒◯
イ:「色彩を多様」「色に投影して表現」⇒×
ウ:「生真面目」⇒×(失敗してもいいよ、と背中を押している人物の描写としては不適当です)
エ:「最終的に意見が衝突し壊れてしまうことになる二人の関係」⇒×
オ:「妻の動揺」⇒×(どっしり構えて光義の背中を押していますね)
カ:「わしわしと行儀悪く」「迷いを振り払い」⇒◯
今回の解説は以上です。
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