都立日比谷高校 推薦小論文 2022年度入試(令和4年度入試)解説

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このページでは、2022年1月に実施された都立日比谷高校推薦入試の小論文を解説します。

なお、事前に星進会の「教科別日比谷高校合格メソッド・小論文」を読んでいただくと以下の解説への理解度が高まると思います。

また、ここで解説している小論文の問題は日比谷高校のホームページで入手することができます。

まだお持ちでない方はこのURLから問題を入手し、一度解いてみてから解説を読むことをお勧めします。

小論文の解説では、知識・発想・文章について日比谷高校受験生のレベルに合わせることを意識しました。
マニアックすぎる知識や突飛すぎる発想に基づいた解説にしてしまうとこの記事の存在価値がなくなるからです。
皆さんが当日に実践できる「知識の活用法」「発想法」「文章作成法」が身につく記事になっています。

では、解説を始めます。

この年、日比谷高校がテーマとしたのは「地球温暖化」「再生可能エネルギー」でした。
これは2016年度(平成28年度)入試でも出題されたテーマです。
この年の大問2では「再生可能エネルギー」というフレーズをタイトな文字数制限のなかで何度も書かねばなりませんでした。
それにより「書きたいことが十分に書けない!」という受験生が大量発生したと思われます。
そこで、2022年度は「『再生可能エネルギー』は『再エネ』と表現してよい」というルールが追加されました。
ありがたい追加ルールですね。
(なお、この注釈が示唆することとして「略称は勝手に使ってはならない」ということが挙げられます。自己PRカードや小論文で略称を使わないように気を付けましょう。例:「バスケ部」(正しくはバスケットボール部)、「英検」(正しくは実用英語技能検定))

Contents

問1

日比谷高校推薦入試の小論文では、設問の要求に正しく答えることがとても重要です。
この設問の要求は以下のとおりです。
・再生可能エネルギー推進に向けた日本の取り組みの現状について述べる
・欧州と比較しながら述べる
・図1~図4を用いる

以上3つの要求があります。
これに留意して文章の構想を練りましょう。
注意が1つあります。
「~しながら」という語句の解釈についてです。
この語句があるとき、「欧州との比較」は絶対に必要ですが、それだけではダメです。
「~しながら」はどんなときに使いますか?
例えば、「テレビを観ながら宿題をした」というふうに使いますね。(皆さんはそんなことしないと思いますが。)
テレビと宿題、やっていることが2つあります。
ここから、「欧州との比較だけではダメ」「少なくとももう1つやるべきことがある」ということがわかります。
欧州との比較のみに終始するのではなく、日本自体の現状や変化を書くようにしましょう。

図1~図4を用いるという条件を満たすために、順番に読み取っていきましょう。

図1

欧州と日本の電源別発電電力量の構成比が書かれたグラフです。
欧州との比較がしやすいですね。
欧州各国の再エネ比率が約40%であるのに対し、日本は約20%となっています。
半分という表現ができますね。
(なお、「少ない」「多い」は避けましょう。数字で表現できることはなるべく数字で表現するのが鉄則です。)

図1から読み取れることは他にないでしょうか?
実は、もう1つ大事なことを読み取ることができます。
それは、「日本の再エネによる発電のうち約7割が太陽光発電である」ということです。
日本の再エネについて、わざわざ内訳を示してくれているのですから、これに言及しないのは減点だと思われます。

図2

発電方法ごとの発電コストが書かれている表です。
欧州に関する情報は皆無なので、図2に関しては欧州との比較はできません。
日本の現状について読み取りましょう。

まず、項目が6つありますが「石炭火力」「LNG火力」と「再エネ」(陸上風力・太陽光・地熱・バイオマス)の2つのグループに分けられます。
グループ間での比較、そしてグループ内での比較をすることで
・火力発電のコストは安く、再エネ発電のコストは高い
・太陽光発電のコスト≒石炭火力発電のコスト⇒太陽光発電はコスト削減にある程度成功している
・LNG火力と比べると、太陽光発電以外の再エネ発電のコストは2~3倍⇒太陽光発電以外の再エネ発電はコストに課題を抱えている

といったことを読み取れます。

図3

欧州と日本の太陽光発電コストの推移が記された表です。
「欧州と比較する」という条件を満たすのにもってこいの表ですね。
そして、2010年・2016年・2019年のコストが記されています。
つまり、日本国内での10年間のコストの変化も分かります。
日本の現状に加え、過去の日本との比較つまり「時系列データの変化」を読み取ることができます。

●欧州との比較
・2010年:欧州の総コスト=日本の総コスト
・2016年:日本の総コストは欧州の2倍
・2019年:日本の総コストは欧州の約2倍(2倍より少し削減に成功)

また、2019年に関しては総コストだけではなくその内訳も記されています。
わざわざ記されているのですから、絶対にスルーせず、ここから読み取ったことも書きましょう。

・設備・工事の費用:日本は欧州の1.8倍(設備・工事の費用は発電をスタートするときのみにかかる費用)
・運転維持費:日本は欧州の2倍(運転維持費は発電をしているあいだずっとかかる費用)

日本は欧州と比べて(設備・工事の費用もだが、特に)運転維持費が高い⇒その運転維持費は、ずっとかかり続ける費用であるためそれを削減することが課題である

●日本の変化
・10年でコストの約7割を削減成功

欧州と比べるとダメな点が目立つ日本の現状ですが、ここ10年間でコストの7割を削減できています。
これは事実としてちゃんと褒めてあげましょう。(皆さんはダメ出しばかりだとやる気をなくしちゃいますよね。日本政府も同じです。多分。)

図4

欧州と日本の電力網の違いについて書かれたイラストです。
今回、もっとも活用しづらい図はこの図4だと思います。
皆さんはどのように使いましたでしょうか。
私の意見を紹介します。

まず、前提として
「日比谷高校の推薦入試では3年間で学習した(はずの)知識を活用することが求められる」
ということを知っておくこと、常に意識しておくことが求められます。

・日本の電力網:くし型⇒3つの●がまっすぐに並んでいる⇒これは直列つなぎ
・欧州の電力網:メッシュ型⇒直列つなぎと比較するのだから、これは並列つなぎと考えて良さそう

家庭の電気は並列つなぎとなっている。
理由は安全で効率が良いから。
という中2理科で習う知識を使って、
「欧州は電力網が日本と比べて安全で効率が良いので再エネ発電の発電コストを抑えることができる」
とするとよいのではないかと考えました。

出そろった材料を文章にする

以上で材料はそろいました。
あとはこれを240字でまとめましょう。

まず、字数を気にせずに書いてみます。

図1から、電源別発電電力量の構成比が欧州各国は約40%であるのに対し、日本は約20%と半分程度であることがわかる。また、日本の再エネ発電の約7割が太陽光発電である。図2より、太陽光発電のコストは石炭火力と同程度であるものの他の再エネ発電のコストはLNG火力の2~3倍でありコスト高が日本の再エネ普及の妨げであるといえる。図3より、日本は2010年からの10年間で太陽光発電のコストを7割削減したものの2019年の総コストは欧州の2倍近くとなっており特に運転維持費の差が2倍と大きいことから運転維持費を下げることが課題である。図4より、電力網が日本は直列、欧州は並列に近いものとなっており欧州に比べて日本は電力網の安全性や効率にも課題があるといえる。(324字)

となりました。
問1の制限字数は200字~240字なので、ここから80字ほど削らなければなりません。
字数がタイトだと、「再生可能エネルギー」を「再エネ」と表記してよいという措置の重要性が分かりますね。
表現を簡素化するとともに、やむを得ない場合には優先度の低い内容も削って文字数の条件を満たすようにします。
日比谷の推薦入試小論文における文字数が少ないほうの設問(例年問1である)における表現の簡素化の一環として、
・体言止めも辞さない(小論文では本当は体言止めはNG)
・語尾は「だ」を基本とする(「である」も「です」も字数がもったいない)
といったものがあります。
得点がもらえそうな記述を詰め込むことが肝心です。

図1から発電電力量に占める再エネの割合が欧州各国は約40%、日本は約20%と欧州の半分であり、再エネ発電の約7割が太陽光発電だ。図2より太陽光発電の費用は石炭火力と同程度だが他の再エネ発電はLNG火力の2~3倍の高コストになっている。図3より日本は2010年からの10年間で太陽光発電の費用を7割削減したが2019年の総コストは欧州の2倍近くで特に運転維持費の差が2倍で運転維持費が高い。図4より、電力網が日本は直列、欧州は並列で欧州に比べ日本は電力網の安全性や効率に課題がある。(240字)

なんとか240字におさめました。
字数削減の前後を比較することで、どうやって字数の節約をするのかが分かると思います。
参考にしてください。

問2

問2はやや設問条件が複雑になっていますが、内容の自由度は高いので書きやすかったのではないでしょうか。

設問条件は以下の通りです。
①地球温暖化対策に努めることに付随して得られる効果とそのとき実施した対策の内容(2つ)
②地球温暖化対策を進めていく中で生じうる問題
※段落分けはしない

この2つについて書きます。
①は前年の2021年度入試(令和3年度入試)の問1の再利用ですね。
そこでは、ある目標に対する解決策が他の目標に対する解決策にもなるということについて考えました。
それと同じ構図になっています。

②は2016年度(平成28年度)の過去問を解いていれば「経済活動を減退させる可能性がある」ということが真っ先に思いつくはずです。

過去問演習の有無が書きやすさを左右する問題となっているので、もしかしたら日比谷高校側も「しっかりと推薦入試の対策をしてきてくれた子を合格させたい」と思っているのかもしれません。

①について

たくさんの例が挙げられると思いますが、私が思いついたのは
・自動車の代わりに自転車を使う⇒健康になる(費用の節約でもいいが、設問で紹介された例と被る)
・レジ袋の消費量を減らす⇒プラスチックごみの量が減り、海がきれいになる

でした。
これが正解というわけではありません。
各々の事例を考えてみてください。

②について

これもたくさんの可能性があります。
私が最初に思いついたのは
上記の通り「経済活動を減退させる可能性がある」でしたが、他に思いついたものとして

・途上国が再エネ関連の技術不足に苦しむ
・各国で温室効果ガス排出量削減の合意をしても、勝手に離脱する国がでるかもしれない
・過去に温室効果ガスを大量に排出してきた先進国に対して途上国が不満をもち、先進国と途上国が協力して温室効果ガスの削減に取り組むことができない

があります。
これらについて書くのもありだと思います。

では、書いてみましょう。
問2は、問1と比べてタイトな字数に悩まされることは無さそうですね。
「具体的に」述べなさいと言われているので、字数が余りそうであれば具体例を多く入れて字数を稼ぎます。

地球温暖化対策として自動車を運転することによる温室効果ガスの排出を避けるために自転車に乗って移動することで、その人の運動の機会が増えて生活習慣病の予防ができる、下半身の筋力が向上するなどして健康になるという効果を付随して得ることができる。また、地球温暖化対策として石油の消費量や温室効果ガスの排出量を減らすためにレジ袋の消費量を減らすと砂浜や海面にあるレジ袋の量が減り、海洋生物がレジ袋を飲み込む機会が減るなどして海洋の環境が改善するという効果を付随して得ることができる。地球温暖化対策を進めていく中で、再エネを活用した発電を推進することで高コストかつ気候などの日々変化する要因によって発電量が安定しない発電方法による発電への依存度が高まり、それにより工場での生産活動も安定せず経済活動全体が減退してしまうことが考えられる。
(363字)

ふだん、字数が最大400字まで許容されているのであれば
・400字ギリギリを目指せ
・それができなくても、9割は書け(この場合は360字)

と話しています。
今回はなんとか360字にはしましたが、正直引き伸ばしに必死でした。

上述の通り、この問題は自由度が高いので自己採点が難しいです。
書いてあることが事実に反していない限り、書いたことが内容面で減点になることはほぼ無いと思います。
したがって、地球温暖化対策に関する知識があるかどうかと誤字・脱字や文法面でのミスを防ぐという2点がカギになると思います。
頑張って何度も書いてみてください。

今回は以上です!
他の年度のものも是非ご覧ください。

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