都立日比谷高校 自校作成問題・国語 2021年度入試(令和3年度入試)大問3解説

この記事では、2021年2月に行われた日比谷高校一般入試の国語大問3(小説、物語文)を解説します。
日比谷高校の一般入試では、国語や数学、英語は自校作成問題での試験が行われます。
自校作成問題はその学校を受験しにくる生徒のレベルに合わせた難易度となります。
したがって、日比谷高校の自校作成問題は都立の共通問題や他校の自校作成問題と比べても難しい問題であることが多いです。

この記事は、日比谷高校の自校作成問題を対策するにあたって
「本文をどのように読み進めていけばいいのか」
「どのような手順で選択肢を選んでいけばいいのか」
「記述問題を書くとき、どのような思考回路で書く内容を決めればいいのか」
といったことを知りたい人向けに書きました。
ですので、この記事を読んでもらえれば上記のことを過去問解説を通して理解していただけます。

その際、

事前に自力で問題を解いてからこの解説記事を読む

ことを強くオススメします。

では、解説を始めます。

Contents

本文解説

・登場する人物は主人公・沙耶と監督だけ。(主人公の弟と友人には言及のみあり)
・初めから終わりまで2人が話している場面のみ。場面転換はない。
・ただし、試合中の回想シーンが挿入される。

といった概要です。
様々なヒントから心情やその変化を読み取っていきます。
これは、日比谷高校の自校作成問題に限らず小説問題全般に必要な意識です。

「驚いとるか。」⇒正直に答える。ものすごく驚いていた。

沙耶が「驚いている」という心情であることがわかる。

「考えてもいませんでした。」⇒「何を考えとった。」×2

沙耶が驚いていた理由が判明する。
考えてもいなかったことが起きたからだ。
もっと具体的にいうと、「(私が射撃競技で)400点台なんて出せると思っていなかったのに、出すことができたから。」となる。

質問の意味が解せない、唇を結び顎を引いた、答えられなかった

質問の意味を理解することができず、「試合中に何を考えていたのか」という問いに答えることができなかった
⇒沙耶は「唇を結び顎を引いた」という動作をしている。
 動作の意味は前後の内容から読み取る。
⇒その後、「何を考えていただろうか」「標的のこと、でしょうか。」といったかたちで質問の答えを考え、答えている。

怖かったです。

・原因として「練習のときと違っていた」が挙げられますが、それ以上のことはわからない。
・「どう違うか上手く説明できない」と本人が言っているので、ここにはこれ以上のことは書いていない。どこかに書いてあるのだろうと考えて、先に進む。

唇を軽く舐める⇒おかしい・笑う

唇を軽く舐める、は監督の動作。
これに対して沙耶は小学生の弟、直哉を思い出す。
しかし、その説明だけでは沙耶の心情はわからない。
沙耶と直哉は仲が良いかもしれないし、悪いかもしれない。
それは、この文章からはわからない。
気をつけなくてはならないことを1つ。
あなたが兄弟姉妹と仲が良い、または仲が悪いからといってそれを小説を読解しているときの兄弟姉妹関係にも適用してはいけません。
小説の読解は、あくまで客観的に行ってください。
客観的、というのは「自分とは切り離す」という意味です。
解いているあなた自身の経験や意見を読解に影響させないように注意してください。

では、監督が唇を軽く舐めるのを見たときの沙耶の心情は?
その答えが、「おかしい」「笑う」である。
沙耶は「試合は練習と違っていて、怖かった」という話をしている。
その沙耶が、監督が唇を軽く舐めるのを見て笑ったのである。(監督の目を通してそれが描写されている)
つまり、「試合中の怖かったことについて考えていた沙耶は、監督が唇を軽く舐めるのをみて、それが弟の直哉と似た仕草であったため緊張が緩和されて笑った」と考えられる。

できません(即答)

監督が「怖い」をきちんと説明するよう求める
⇒その要求に対し、沙耶が「できません」と即答する。
⇒それに対し、監督は「もう少し言語力を磨け」「端からできないなんて一言で片付けるなや」と、もっと考えるよう求める。
 「これからますます必要になるぞ」「その努力はおまえのためになる」という理由も添えている。
(余談ですが、人に指示をするときは意義・目的を伝えて納得してもらうと指示通り動いてもらえる確率が上がります。)
このときの監督とのやり取りについて、沙耶は「まるで口頭試問を受けているようだ。」と述べている。
これはどういうことだろうか。
ここでも、読んでいるあなたの主観を交えてはいけない。
あなたは、口頭試問は嫌いかもしれない。(というより、ほぼみんな嫌いだと思う。)
でも、ここで沙耶が「嫌な気持ちになった」とは限らない。
沙耶にとって「口頭試問を受けているような状況」が、どんな心情で受け止められているかを読み取りたければ、前後の描写をヒントにして考える必要がある。
しかし、ここではそれを考える必要はない。
理由①直後に「でも」(逆接の接続詞)があり、沙耶の心情は変化している。
理由②この部分(「口頭試問を受けているようだ」)が、設問になっていない。

監督は本気であたしの答えを聞きたがっている

「監督は本気だ」と、沙耶は思った。
なお、監督が求めているのは、「沙耶が試合中に感じた、標的が怖いという気持ちがどういうことなのか、沙耶なりの考えを聞くこと」である。
監督の本気に、沙耶はどう対応したのか。
「わかる。」⇒この発言からは何も分からない。
なお、何度も言っていることだが、「周りの人、まして監督が本気になっているのだから沙耶も本気になるに決まっている。私ならそうする。」と考えるのはNGである。主観は挟まない。
では、沙耶の対応は?
「沙耶もそっと下唇を舐めてみた。」⇒「~してみた」は、「やってみた」「解いてみた」などの例からも分かる通り、「前向きな挑戦」を表す。その証拠に、その後4行の長ゼリフで沙耶は練習のときの心情について話している。

練習のときは・・・

沙耶は、「試合中は練習のときとは違っていて、怖かった」と述べている。
なので、練習と試合で何がどう違っていたのかを考えるためにまずは練習のときのことを整理している。
・ちゃんと撃つ、正しく撃つことをずっと考えていた
・ちゃんと正しく覚えなきゃと思っていた
・がんばらなくちゃと思っていた
⇒理由:周りより遅れているから。
※「~な分、〇〇だと思った」は~が原因、〇〇が結果の因果関係を表す。
例:「勉強した分だけ、日比谷高校合格に近づく」⇒原因は「勉強した」、結果は「日比谷高校合格に近づく」。

促すような首肯

監督は沙耶の発言に対し、何も口を挟まずにさらなる発言を促している。

真面目だなと評されると思った⇒真面目なんかじゃない

沙耶は、監督に「真面目だな」と評されると思いましたが監督は何も言いませんでした。
それに対し、沙耶はほっとします。安心します。
つまり、「真面目だな」と言われたくなかったということがわかります。
なぜでしょうか。
・真面目なんかじゃない
・真剣に取り組む覚悟もできていない
・まだまだ中途半端だ
と自分のことを評している。
「中途半端だ」という評価に関しては2度繰り返している。それだけ、強調されていることに気づきたい。

逃げたくない

「でも」は逆接である。
つまり、ここで流れが変わる。
沙耶は「逃げたくない」と思っている。
そして、それは「もし逃げたら自分を許せなくなる」からである。
では、なぜ「逃げた自分を許せなくなるのか」というと、「花奈に報いたい」という思いがあったからである。
そして、それは「力み」であった。

決して、真面目だから頑張っていたわけではない。
「花奈に報いたい」という力みがあって頑張っていたのである。

突然登場した「花奈」は何者なのか。
沙耶を射撃という未知の世界に導いてくれた人らしい。
詳細も注に書いてある。
報いる、というのは恩返しをする、ということである。
沙耶は花奈に恩があるのだ。
そしてそれは、射撃という未知の世界に導いてくれた、という恩であることがわかる。

ここまでが、練習のときの話。

試合になったら・・・

練習では力んでいた⇔試合では力みがいつの間にか消えていた
力みは消え、標的だけがあった。
それが少し怖かった。
未知の世界、知らない世界が怖かった。

他にも変化が。
練習:ジャケットに自由を奪われるように感じていた(マイナス)
試合:ジャケットが身体を支えてくれた、重石になってくれた(プラス)
という変化。

「AではなくB」という表現は、対比構造をつくる。
ここでは、「理論⇔実感」という対比構造だ。「頭⇔心」という対比だと考えてもよい。
ただ頭で分かったというだけでなく、心の底から納得できた、感じられたということである。

久しぶり

「久しぶり」という言葉が、これでもかというくらいの回数繰り返されている。
「久しぶりだ」「本当に久しぶりだ」「久しく」、すこし行をあけて「久々だ」である。
久しぶりなのは、「この感覚」。
「この感覚」とは、緊張と昂ぶり、集中と弛緩、恐れと興奮。

しかし、この久しぶりの感覚は、撃つたびに薄れ、消えていったという。

陸上と射撃

ここから、中学での陸上と今やっている射撃の対比が続く。

陸上:ハードルだけを見ることができなかった
射撃:標的だけを見ることができた=他のことを考えずに撃つことだけ考えられた

時折、軽く頷く

監督は、こうした沙耶の話を言葉は挟まずに軽く頷きながら聞いていた。
監督の反応が描写されるのは久しぶりである。
前回は、 「促すような首肯」、つまり「監督は沙耶の発言に対し、何も口を挟まずにさらなる発言を促している。 」という描写だった。
今回も同じであると考えられる。
つまり、監督は言葉を挟まないことによって沙耶の発言を促している。
その証拠に、沙耶はその後
・「いつの間にか」
・「考えたことをあらかた」
しゃべっていた。

監督の「聴く力」、恐るべしである。(あ、これは主観なので読解には関係ないよ。)

監督の発言

それまで黙って聞いていた監督が最後に発言。
・「おまえは伸びる」
・「どんどん強くなれる」
・「オリンピック出場も夢じゃない」

これに対し、沙耶は
・「はぁ?」
・「我知らず顎を引いていた」
・「オリンピック?」
・「どうして?」
・「冗談?」
・「笑えない」
とリアクションしている。

ここでこの本文は終わり。

監督のこの発言は本気なのか、それとも沙耶をその気にさせるためのリップ・サービスだったのか。
そして、沙耶は今後オリンピック出場レベルまでのし上がっていくのか。
それは、分からない。
少なくとも、この日比谷高校一般入試には関係ない。

でも、気になる人もいると思う。
そんな人は、受験が終わってからでもいいのであさのあつこさんの『アスリート』を読んでほしい。
受験が終わったらたくさんの本を読んでほしいので、受験勉強で出会った文のうち、「これは!」と思うものはタイトルをメモしておこう。

設問解説

本文解説が終わりました。
ここからは設問の解説をします。
とはいえ、本文を徹底的に解説しましたので新しいことはほとんどありません。
本文解説の確認のつもりで読んでいきましょう。

問1

傍線部1

沙耶は監督の質問の意味を理解することができず、「試合中に何を考えていたのか」という問いに答えることができなかった。
そして、「唇を結び顎を引いた」という動作をしている。
この沙耶のしぐさを通して、作者は何を表現しようとしたのだろうか。
それを、傍線部前後から読み取る。
傍線部1の後、「何を考えていただろうか」「標的のこと、でしょうか。」といったかたちで質問の答えを考え、答えている。

「答えられなかった」⇒「唇を結び顎を引いた」⇒「質問の答えを考え、答えた」という流れになっている。

傍線部6

監督の
・「おまえは伸びる」
・「どんどん強くなれる」
・「オリンピック出場も夢じゃない」
という発言に対し、
沙耶は
・「はぁ?」
・「我知らず顎を引いていた」
・「オリンピック?」
・「どうして?」
・「冗談?」
・「笑えない」
とリアクションしている。

選択肢

ア:「答える気力をなくしている」
⇒傍線部1の「答えられなかった」⇒「唇を結び顎を引いた」⇒「質問の答えを考え、答えた」という流れに矛盾している⇒×
イ:「緊張」「落ち着こう」
⇒傍線部1の前後では「質問の意味が解せない」「答えられない」といった描写はあるが、「緊張」とは描写されていない。
⇒×
なお、「緊張」という言葉自体は回想シーンで登場している。
ウ:「分からない」(=「解せない」)、「戸惑い」(=「はぁ?」「どうして?」) 、「自分なりに受け止めよう」(⇒すぐには答えられなかったが、その後考えて答えていった。)となるので、これが正解だと判断する。
エ:「言葉選びに慎重になり」
⇒言葉を選ぶ、ということは自分の考えをどういった言葉で表現しようかを判断している、ということである。
つまり、考えることは既に終わっていてそれを言葉にして相手に伝えるという段階の悩みを抱えているということだ。
しかし、沙耶はここでは「質問の意味が解せない」「答えられなかった」という状態なのでまだ自分の考えはまとまっていない。
よって、×。

問2

傍線部付近には答えのヒントがない。
さすが日比谷高校、と思わせる問題である。
ちなみに、「傍線部付近には答えのヒントがないな」と判断するためのヒントは「上手く説明できない」である。

怖いのは、
・「標的だけがある」
・「未知の世界」
・「知らない世界」
である。
「未知」「知らない」とはどういうことか。
「沙耶とライフルと標的だけが残った」⇒他のことを考えずに撃つことだけを考えることができた。
これが陸上のときはできなかったことだったので、「未知の世界」「知らない世界」だったのである。

選択肢

ア:「久しぶりに」⇒「未知の世界」「知らない世界」と矛盾⇒×。「試合前の感覚」でもない。試合中の話をしている。
イ:「あらゆる雑念がなくなって自分と標的だけしかない」(≒沙耶とライフルと標的だけが残った)⇒◯
ウ:「結果を残さなければ」「焦燥感」=力み⇒練習のときはあったが、試合のときには消えた⇒×
エ:「標的が大きく迫ってくるようにみえた」⇒該当箇所なし⇒×

問3

傍線部直後の沙耶は、
「沙耶もそっと下唇を舐めてみた。」⇒「~してみた」は、「前向きな挑戦」を表す⇒4行の長ゼリフなどで自分なりの答えを考えている。

選択肢

ア:「考えたことを自分の言葉にしていく」「じぶんにもわかる」⇒前向き⇒◯
イ:「監督は既に推測している沙耶の答えを」「確認」
⇒監督が聞きたいのは沙耶が自分で思ったこと、考えたこと。沙耶なりに考えたこと(傍線部5直前)⇒×。
ウ:「成長を気付かせよう」⇒該当箇所がない⇒×
エ:「自分の答えでは説明不足だ」⇒前向きではない⇒×

問4

記述問題である。
「真面目なんかじゃない」⇒「~ではない」、などの否定表現は対比構造をつくります。
この問題を考えるときのカギは、「対比」です。
では、何と何を対比しているのでしょうか。
一方は、「~ではない」の側。
・真面目なんかじゃない
・真剣に取り組む覚悟もできていない
である。
もう一方は、「では何なのか」の側。
・「逃げたくない」
・「もし逃げたら自分を許せなくなる」
・「射撃という未知の世界に導いてくれた花奈に報いたい」
・「力み」
である。
これらを、「〇〇という思い。」というかたちで70字以内でまとめればよい。

解答例
真面目で、真剣に射撃に取り組む覚悟があるわけではなく、射撃の世界に導いてくれた花奈に報いたいという力みがある中途半端な状態だという思い。(68字)

字数制限を守りつつ、入れておいたほうが良さそうな要素をすべて入れることができました。
今回はこれを解答例とします。
なお、日比谷高校がサイトで解答例を公開していますのでそちらも必ず確認しておいてください。
http://www.hibiya-h.metro.tokyo.jp/SelectedEntrants/TestTheme.html

問5

監督に促されて、
・心にあったこと
・漠然と感じたこと
・沙耶なりに考えたこと
をいつの間にかあらかたしゃべっていた、という場面。

選択肢

ア:「しっかりと」⇔漠然と、なので×
イ:「考えはまとまっていなかった」(=「すぐに答えられなかった」等)、「心の動きや今の思い」(=「心にあったこと」「感じたこと」「考えたこと」)⇒◯
ウ:「話したいわけではなかった」「つられてしまった」「話してしまっていた」⇒中学時代のことは話したくなかった、という描写はない⇒×
エ:「思っていたことや考えたことをまとめていく」⇒「漠然と感じたこと」等を話しただけ=まとめた、整理したわけではない⇒×

問6

ア:「二人の性格の違い」⇒監督が何も口を挟まなかったのは、そういう性格だからではなく、沙耶の発言を促すためである⇒×
イ:「試合に立ち向かう主人公の姿」「緊迫した臨場感」⇒描いているのは試合中の主人公の内面である⇒×
ウ:「話がかみ合っていない」「世代を超えて話をすることの難しさ」⇒「・・・・」が多いのは、考えながら話しているから。
エ:「自身の心の中を整理させる」「思いや状況を語らせる」「今の思いを感じ取らせている」⇒主人公が「試合中に何が怖かったのか」、それに関して「標的だけがあった」「撃つことだけを考えられた」などと話している。主人公の内面が今回のテーマ。よって、◯。


日比谷高校の国語は、傍線部の前後だけに注目していては高得点が狙えません。
文章全体のつながりや主題を意識するようにしてください。
ちなみに今回の主題は「力みをなくし、目の前のことに集中することの大切さ」かなと私は考えています。

今回は以上です!

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