都立日比谷高校 自校作成問題・国語 2020年度入試(令和2年度入試)大問5解説

日比谷高校の国語の自校作成問題では、大問5で和歌を題材にした説明文・評論文が出題されます。
テーマは、日本人の自然観や美意識、芸術との向き合い方などです。
テーマのバリエーションが限られていますので、過去問の本文を深く読み込んでいくとどんどん読みやすく・解きやすくなっていきます。

この記事では、2020年度の日比谷高校入試の国語大問5を解説します。

・本文を読解するためのポイント
・設問に正解するためのポイント
・記述問題対策のポイント
を中心に説明していきます。

日比谷高校入試対策や他の自校作成問題校の入試対策に活用してください。

Contents

本文解説

今回の本文のテーマは西行の自然観や価値観です。
西行や西行以外の歌人が呼んだA~Gの和歌を用いて西行の自然との関わり方や考え方を説明をしています。
段落ごとに読み進めていきましょう。

第1段落

疑問・問いかけは文のテーマを示します。
ここでは、
「西行は・・・どのような自然を見、そこから何を感じ取っていたのか」
これがテーマです。

和歌A

作者への言及がないので、おそらく西行の和歌。
一本だけで立っている松=友人のいない、一人ぼっちな自分

第2段落

「一つ松」は強い印象を与えるものである。

和歌B

西行より後の時代の、藤原為家の和歌。
一本松とそれを照らす月を詠んでいる。

第3段落

諷喩詩(社会批判の詩)
谷底の一本松⇒人に知られていない
優れた人材⇒人に知られていない(逆境に埋もれている)

社会批判:人に知られずに埋もれている優秀な人材を登用する社会にすべきだ!

第4段落・第5段落

一つ松=自然の中の対象⇒見る人によって見え方が異なる
・人間そのものを見る
・時間を見る
・松そのものを見る
⇒見方によって対象と和歌の詠み手の心理的距離が異なる

為家の歌(和歌B):一本松と為家の心理的距離が遠い
西行の歌(和歌A):一本松に自分の姿を重ねている=友としてみている(=一本松と西行の心理的距離は近い)

和歌C

西行の和歌
和歌Aと同じく、西行と一本松の心理的距離が近いことを示す和歌。
松を友と見ている。

第6段落

第1段落以来の問いかけです。
「西行と松との心理的距離が0になり、西行と松は同化したのか」
が文の次のテーマです。

第7段落

そうではない:西行と松との心理的距離は0にはなっていない
西行にとっての松
・西行の孤独さを自覚させた(改めて考えさせた)
・非情な存在(感情がないので、松が西行に愛情を注ぐことはない)
・有情なもののように西行が一方的に愛情を注ぐ存在

為家にとっての松
・感情は入り込まない(捨象される)
・切り取られた、音のない風景

第8段落(前半)

西行の和歌の特色(=この文章全体のテーマ)
⇒対象への感情移入が強い

「例を拾う」と明言されている⇒和歌D・和歌Eは西行の対象への感情移入が強いことを示す例である

和歌D・和歌E

・西行の和歌
・西行が対象に強く感情移入することの例
⇒軽く目を通しておけばOK

第8段落(後半)

和歌D:西行は鴛鴦に自らの姿を見ている
和歌E:仲間とはぐれた雁に自分の境涯との類似性を感じている

第9段落

西行の物を見る態度、聞く態度(=この文章全体のテーマ)
=対象を自分にひきつけて見る、聞く
⇒それによって、対象を自己の内に取り込もうとする
⇒孤独な我への自覚が深まる

第10段落

この文章で3つ目の問いかけがあります。
次のテーマは、
「西行は自己完結的な思念に終始していたのか」
です。

そう考えると説明がつかない=西行には自己完結的な思念以外の思念もある
ことを示す和歌を存在する流れになっています。

和歌F

・西行の和歌
・自己完結的でない思念によって詠まれた和歌である
(ということだけ把握できていれば軽く目を通すくらいでOK)

第11段落

「~と異なって」「~ではない。むしろ・・・」「~ない。」:対比構造を示します。
ここでは、
「それまでの西行の和歌」⇔「和歌F」
自己との相似性を見出す(対象を自分の内へ取り込もうとする)⇔客観的に歌う(対象を内に取り込もうとはしない)

第12段落(前半)

「しかしながら」=逆接の接続詞
⇒文の流れが変わることを示している

単に奇をてらって詠んでいる⇔自己と異なった世界に深い興味と強い関心を抱いて詠んでいる

自分とは異なった世界に深い興味と強い関心を抱いて詠んだ和歌を紹介している。

和歌G

・西行の和歌
・対象に深い興味と強い関心を抱いて詠んでいる

第12段落(後半)

和歌Gについての補足解説をしている
・舟人を思いやっている
・舟人と自分を重ね合わせてはいない=対象を自分の内に取り込もうとはしていない=対象は外在的
・思念が外へ向かっている
・視野が大きく開けている

和歌Fについてもここで補足解説をしている
・和歌Fには、西行の浪漫的、行動的な一面が表れている

主旨

西行の和歌の特徴
・対象への感情移入が強い⇒孤独な我への自覚を深める
・その一方で、対象への深い興味と強い関心を客観的に詠むこともある(浪漫的・行動的な側面)

このように整理できていれば設問を正確に解きやすいと思います。

設問解説

日比谷高校の国語自校作成問題の大問5は本文の主旨を理解できていると解きやすい問題が多いです。
本文の主旨理解をどのように各設問の正解にたどり着く過程に結びつけていくのかを確認していきましょう。

問1

為家の歌の特徴を問う問題です。
西行との対比に基づいて考えます。

為家の和歌:対象に感情移入しない(感情は捨象され、入り込まない)=心理的な距離が遠い
西行の和歌:対象への感情移入が強い=心理的な距離が近い

という対比がなされています。
これを活用します。

「見放して冷ややかに扱う」⇒マイナスの感情が入り込んでいる⇒×

「(心理的な)距離を置く」⇒◯
「距離を置くことで生じる美」⇒×

距離を置くことによって美が生じるという描写はありません。

「遠くに立つ」⇒◯
「自分とは無関係なものとして表現」≒感情移入していない⇒◯

これが正解です。

「松を月に近づける」⇒×
そういった内容は書いてありませんでした。

問2

西行にとって松がどのような存在かを答える問題です。
西行にとっての松
・西行の孤独さを自覚させた(改めて考えさせた)
・非情な存在(感情がないので、松が西行に愛情を注ぐことはない)
・有情なもののように西行が一方的に愛情を注ぐ存在
という存在でした。
これを踏まえて選びます。

「自分の孤独をより一層深める」=「孤独さを自覚させる働きをした」⇒◯

これが正解。

「(松は)同化を拒もうとする存在」⇒×(松は感情がない(非情な)存在なので、何かを拒むこともない)

「興味と関心をいだき」⇒ここでは×
西行が興味と関心を抱いて詠んだ和歌は和歌F、和歌G。
これらの和歌が出てくるのは傍線部(2)よりも先のことである。

「親しみをこめて呼びかける」⇒×
親近感は生じており、西行から松への呼びかけもあったが、松は西行に孤独さを自覚させただけ⇒「親しみをこめた呼びかけ」にはなっていない

問3

和歌Gの「おぼつかなし」を解釈する問題です。
前提知識に応じて複数の解法が存在ます。

解法①古文単語「おぼつかなし」の意味を知っている場合
古文単語「おぼつかなし」は「気がかりだ」「不安だ」という意味です。
これを知っていればこの問題は一瞬で解くことができます。

日比谷高校受験生のなかには、早稲田大学や慶應義塾大学の付属校など偏差値の高い私立高校を併願している受験生が多くいます。
そして、それらの高校のうち一部の高校は入試で古文の問題を課します。
そうした学校の対策をしている場合、古文単語「おぼつかなし」の意味を知っている可能性は高いです。
そういった場合、①の解法をとることができます。

解法②本文中の情報から解く
おぼつかなし
=舟人への思いを表す意味で使われている(問3で与えられた文)
=舟人を思いやるという発想(本文)
⇒季節風が吹いている方向に進んでいった舟人のことを心配している

こちらのほうが正攻法です。
仮に「おぼつかなし」の意味を知っていたとしてもこちらの解法でも正解にたどり着けるようにしておいてください。

問4

和歌H:西行の歌
和歌I:村上天皇の歌

となっています。

和歌Hの通釈:月が私の心を乱し、ものを思わせる
⇒西行自身の内面について詠んでいる
⇒第10段落の「内へ内へと巻き込む、自己完結的な思念」がある
⇒しかしこれは18文字。短すぎる。
⇒似たような表現で35字程度の箇所を探す
⇒第9段落の「物を見る、あるいは聞くことによって、内へ内へととぐろを巻いていく思念」
⇒これが34字
⇒これの最初の5字「物を見る、」が正解となる

個人的には、18字も「35字以内」という条件を満たしているので「内へ内へと」にも点をあげてほしいと思っています。
ただし、皆さんには「35字以内、とあるのに18字は短すぎるから他を探そう」と思えるようになっておいてほしいです。

問5

和歌についての説明として適切なものを選ぶ問題です。
それぞれの和歌がどのような位置づけでそこに置かれているのかを、前後の本文から読み取りましょう。

「松に・・・同化しようとしている」⇒第6・第7段落「同化できたのであろうか」「そうではない」⇒×

「自分もそうありたいと願う」⇒第8段落「自らの姿を見ようとする」⇒今の自分の姿と重ね合わせている⇒×

「西行自身との対照性」⇒第8段落「自身の境涯との相似を感じている」=自分と似ているなと思っていた⇒×

「対象に自分を重ねようとはしない」⇒第11段落「自己との相似性を見出しうるようなものでは全くない」
「外在的なものへも心を寄せていく」⇒第12段落「自己と異なった世界に、深い興味と関心を抱いている」
これが正解。

それまでの和歌と、和歌F・和歌Gでは西行の作風が全く異なることに注意してください。

日比谷高校の国語・自校作成問題の大問5は本文に書かれていることを丁寧に読解していけば正解にたどりつきやすくなっています。
慣れれば得点源にできますので、過去問を使って演習を積み重ねていきましょう。

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