都立日比谷高校 自校作成問題・国語 2020年度入試(令和2年度入試)大問4解説

この記事では、2020年2月に行われた日比谷高校一般入試の国語大問4(説明文、評論文)を解説します。
日比谷高校の一般入試では、国語や数学、英語は自校作成問題での試験が行われます。
自校作成問題はその学校を受験しにくる生徒のレベルに合わせた難易度となります。
したがって、日比谷高校の自校作成問題は都立の共通問題や他校の自校作成問題と比べても難しい問題であることが多いです。

この記事は、日比谷高校の自校作成問題を対策するにあたって
「本文をどのように読み進めていけばいいのか」
「どのような手順で選択肢を選んでいけばいいのか」
「記述問題を書くとき、どのような思考回路で書く内容を決めればいいのか」
といったことを知りたい人向けに書きました。
ですので、この記事を読んでもらえれば上記のことを過去問解説を通して理解していただけます。

その際、

事前に自力で問題を解いてからこの解説記事を読む

ことを強くオススメします。

では、解説を始めます。

Contents

本文解説

第1段落~第6段落

第1段落

いきなりですが、読解のポイントを1つ紹介します。

一般論のあとには、「逆接+筆者の主張」が来ることが多い

というものです。

ここでは、
「~とさかんに言われるようになった」:一般論
「しかし」:逆接
「(私は)そうした議論には与しない」:筆者の主張
となっています。

第1段落で筆者が言いたいことは、「私はAIが人間を超えるとは思わない」ということですね。

第2段落~第5段落

各段落の冒頭を拾っていくと
・特定のジャンルでAIが人間を超えることはある
・人間はAIと勝負する必要はない
・AIが生物のようになる可能性はない
・人間の脳とAIは全くの別物
となります。
いずれも、第1段落で筆者が主張した「AIが人間を超えるとは思わない」の言い換えになっています。

第2~第5段落は軽く読み流してくれれば大丈夫です。

第6段落

第2~第5段落は軽く読み流してOKでした。
では、どこからしっかり読む必要があるのでしょうか。
第6段落からです。
なぜ、そう判断できるのでしょうか?

それは、「ただ」というそれまでとは文の流れを変える接続語があるからです。
「しかし」と同じような扱いで、そこから文の流れが変わると考えてくれればOKです。

余談ですが、「しかし」と「ただ」はそれをみたときの皆さんの対処は同じです。
「ここから文の流れが変わるんだな」と思ってくれればOKです。
ところが、「しかし」と「ただ」は文法的な説明は全く異なります。

・「しかし」:逆接の接続詞⇒それまでとは逆の内容を述べる際に使う
・「ただ」:補足の接続詞⇒それまでの内容に対し、重要な補足を述べる際に使う

という違いです。
覚えておくと、より高度な読解ができるようになります。

筆者が述べたいことは「ただ」の直後に集約されています。

・「AIが発達すると大きな問題が起きると思う」

ということです。
AIが人間を超えるということはないが、何も問題ないということではなく問題は発生しますよ。

ということです。

「具体的には、どんな問題が起きるんだろう?」
そう考えながら読み進めていくことにしましょう。

そうすると、第6段落の「つまり」に目が留まります。(留めてください)
「つまり」というのは、「これから要点を述べますよ」という筆者からの合図です。
この合図を無視してしまうと、本文の読解に支障がでます。

AIの発達によって生じる問題は、「人間の情報化」だと筆者は述べたいわけですね。

第7段落~第10段落

第7段落

「問いかけ」がなされています。
問いかけは文の方向性、テーマを示してくれます。
ここでは、「これから『情報化とはどういうことか』について述べますよ」ということが問いかけによって宣言されています。

第8段落

「違い」は対比構造をつくります。
ここでは、
人間⇔動物
の対比構造をつくって話を進めていくということが述べられています。

第9段落・第10段落

第9段落で人間について、第10段落で動物について述べることで両者の違いを説明しています。

人間:「意識=理性」によって「同じ」という概念を持っている(それによって等価交換、言葉、お金、民主主義を生み出した)
動物:「同じ」という概念(「同一である」ということ)を理解できない。物事を「差異」によって判断する。

という違いです。

第11段落~第15段落

第10段落で述べた、
「人間は『同じである』ことを理解できるが、動物はそれができない」
という事実を具体例を用いて説明してくれています。

ですので、第10段落までを正確に読解できていれば第11~第15段落は軽く読み流しておけばOKです。
逆に、第10段落までを正確に読解できていないと感じた場合はここが挽回のチャンスです。
第11~第15段落に書いてある具体例を参考にして第8~第10段落の内容を理解しましょう。

第11・第12段落

人間が「意識=理性」で「同じだ」と認識できるコップを、動物は「違うコップだ」としか認識できない。

第13段落~第15段落

朝三暮四の故事
サル:等価交換、イコールの関係がわからない(朝3つ、夜4つもらうのと朝4つ、夜3つもらうのが同じであることがわからない)
人間:朝3つ、夜4つと朝4つ、夜3つが「どちらも1日7つで同じである」ということが理解できる

同じ内容が繰り返されていますね。

第16段落~第24段落

ここからまた流れが変わります。
流れが変わったことの目印は
・第16段落に逆接の接続詞「しかし」がある
・第17段落に、これまでとは別の問いかけがある⇒文のテーマが変更される
です。
どちらにも注目できるようにしておきましょう。

第16段落

「しかし」とあります。
これまでとは逆の内容について述べるときに使います。
これまで(第7~第15段落)では、「人間は『同じ』が理解できるが動物にはそれができない」という、人間と動物の違いについて述べていました。
ということは、ここでは「人間と動物には違いはない」ということを述べるはずだと予測ができます。

そして、実際に「人間とチンパンジーは・・・同じです。」と書いてあります。
チンパンジーを、動物の具体例の1つとして登場させています。

第17段落

問いかけにより文のテーマを提示しています。
テーマ:「どこで(遺伝子的にはほぼ同じ)人間とチンパンジーの知能が分かれていくのか」

このテーマに沿って後続の文を読んでいきましょう。

第18段落

・三歳まで:人間よりチンパンジーのほうが利口
・四~五歳:ヒトは発育が進む⇔チンパンジー(の発育)は停滞する
⇒四~五歳にヒトとチンパンジーを分ける何かがある
⇒「何か」とは?
⇒後続の文へ

第19段落

ヒトとチンパンジーを分けるもの:「心の理論」
⇒簡単な実験で確かめることができる
⇒どんな実験?
⇒後続の文へ

第20段落~第23段落

実験のプロセスが詳しく書いてあります。
こういった具体例は軽く読み流しましょう。
もし最後の問いに「本文の内容と一致しているものを選びなさい」という内容一致問題があり、その選択肢にこの実験のプロセスに言及しているものがあればそのとき改めて読みましょう。

日比谷高校の自校作成問題では、英語では内容一致問題がありますが国語では無いようです。
したがって、具体例は軽く読み飛ばしてOKなケースがほとんどです。

第24段落

実験で判明した内容として、「心の理論」についての説明がなされています。

人間は成長するにつれて(四~五歳くらいで)「同じ」という概念を獲得する
⇒相手の立場に立つことができるようになる
=相手の心を想像することができる
⇒「心の」理論と呼ばれている

第25段落~第28段落

第25段落

「私は・・・定義しました」
⇒筆者が独自に定義した言葉が登場するときは要注意です。
それが文章全体のテーマに関連することがほとんどだからです。
「定義」ということばがストレートに出てくることもありますが、「・・・とは・・・である」という表現で定義が登場することもあります。
この後の「情報化社会」の定義がそうなっています。

ここでは、現代を「脳化社会」と定義しています。
脳化社会:脳の機能である「意識」が創り出す社会のこと。
情報化社会:社会がほとんど脳になったこと。

第26段落

脳化社会では、
・あらゆる人工物は脳の産物
・脳の世界に住む
・自然を人為的に配置することで自然から自己を解放した
といったことになっています。
「つまり」が要点を示すことと「すら」が強調(=筆者の「ここに注目してほしい」という合図)であることに注意しましょう。

また、「自然」⇔「人工」が対義語のペアになっていることを知っていると読みやすいですね。

第27段落

社会の「脳化」が進む
⇒世界が理性主義になる
=万国共通の「理性」「理論」に基づいた社会になる
(万国共通=世界のどこでも同じであること。ここで、「同じ」がこの文章全体のキーワードであることを意識したい。)
⇒理性を牽引しているのはアメリカ
⇒アメリカ社会は他民族、多文化で構成されている
⇒理性で議論せざるを得ない
=「差異」をともなったローカルルールが通用しない
(⇒世界中どこでも「同じ」である理性で解決しないといけない)

ここでは、「差異」⇔「同じ」の対比も意識したいですね。

第28段落

理性を突き詰めたもの=コンピューター、AI
デジタル世界は「同じ」の極致である

第29段落~第38段落

ここでまた文の流れが変わります。
今回の流れが変わる目印は「一方」です。
「一方」は逆接の接続詞であり、対比構造をつくります。
段落の先頭にある逆接の接続詞は、「ここで文の流れが変わりますよ」ということを私たちに教えてくれています。

第29段落・第30段落

現代の都市は「同じ」であることを突き詰めている
・照明の明るさが同じ(変わらない)
・床の固さが同じ
・(オフィスの環境は)天気がどうであれ同じ(天気に左右されない)
⇒無意味なものが一切ない
(「つまり」の後は筆者が特に伝えたいこと=要点である)

第31段落・第32段落

都市化された社会は「同じ」を追及している
⇒人間の行動にも「同じ」が表れている
・医者は患者の表情や様子(生身の人間)ではなくカルテやパソコンの画面(人体に関する情報)を見ている

第33段落~第37段落

人間の情報化
⇒人間本人よりも書類=情報が必要
⇒「本人」よりも身分証明書のほうが大事なのだろうか…
⇒本人(対面)よりもメールで報告
⇒本人はいらない
=本人はノイズ(雑音)である
⇒身体を伴い、情報化されていない「本人」は不要である

第38段落

「要するに」は注意が必要な接続詞です。
「要するに」の「要」は、「要点」の「要」です。
「要するに」の直後には要点があります。
要点とは、筆者が文章を通して伝えたい大事なポイントです。
絶対に見逃してはいけません。

ここでは、
デジタル化の追求⇒関係のないものをそぎ落とした「データ」だけが必要になる

という主張がなされています。

第39段落~第40段落

ここでまた文の流れが変わります。
なぜそう判断できるか分かりますか?
第39段落の冒頭に逆接の接続詞「しかし」があるからです。
それまでとは反対の内容が述べられることになります。

第39段落・第40段落

意味のあるものだけに囲まれている(=関係のないものをすべてそぎ落とす)
⇒意味のないものが許せなくなる
(一見無駄なこと。娯楽などの存在が許されなくなる)
⇒それは人間が本当に求めている世界なのか(そうではないはずだ)。
⇒デジタル的な理性一辺倒の世界は人間には合わない
(人間には「意味のないもの」が必要だから。)

以上が本文解説です。

設問解説

本文解説の内容を再掲しながら、設問の解法を解説します。
記述問題において「何を書くか」や、記号問題において「どうやって選択肢を絞るか」などの判断を解説していきます。

問1

人間が言葉をどのようにして生み出したのか、を答える記述問題です。
制限字数は50字です。

傍線部にもある、「同じ」がキーワードです。
しかし、それ以外の情報が本文に見当たりません。
直後の具体例も特に「言葉」「言語」とは無関係です。
第12段落の「同じと認識する」はフレーズとして使えるかもしれませんが。

よって、「同じ」というキーワードから自力で言葉の成立過程を書かなければいけません。

言葉というのは、例えば
・足が四本ある
・皿や本などをのせる
・椅子とセットで使う
ものを「ツクエ」と呼ぶことにしよう
といった形で成立するものです。
こういった、ツクエ全般の「共通点」(つまり同じ特徴)を抽出して、それを持つものすべてに「ツクエ」という共通の呼称を与えます。
そうすることにより、「あのツクエが~」「我が家のツクエは~」などのコミュニケーション、情報交換が可能になるというわけです。

こうしたことを50字以内でまとめればOKです。

解答例
「同じ」という概念を活用し、同じ性質のものに共通の呼称を設定して情報共有するために言葉を生み出した。(50字)

本文にあまり頼れない難問です。
言葉の成立過程についてある程度前提知識がないと何を書いたらよいか分からなくなってしまうのではないかと思います。
日比谷高校は、自校作成問題を解くうえである程度の教養を皆さんに求めているのだと思います。

解決策の初めの一歩として、例えば学研プラスから出ている『世界でいちばんやさしい教養の教科書』
https://hon.gakken.jp/book/1340669500
を読んでみるのは非常に有効です。
今回必要になった「言語」をはじめとして、「社会」「歴史」といった重要かつ頻出な分野の前提知識を得ることができます。
イラストも多く、非常に読みやすいです。
普段は高校生に薦めている本ですが、日比谷高校などの上位都立高校を狙う中学生であれば問題なく読みこなせると思います。

問2

この文章では、「心の理論」ということばは第19段落で出てきます。
しかし、「心の理論」についての説明は第24段落に登場します。
そのあいだに具体的な実験の説明があるのでことばとその説明の距離がだいぶ離れています。

文章が

抽象⇒具体⇒抽象

のサンドイッチ構造で構成されることが多いのを意識して第19段落と第24段落を結び付けたいです。

「心の理論」=「同じ」という概念に基づいて相手の立場にたつこと=相手の心・気持ちを考えること
と考えたいです。

「AではなくB」は対比構造をつくります。
ここでは、
「感覚」⇔「心」
となっています。
さて、このような対比が傍線部前後にあったでしょうか?
ありませんでしたよね。
なので、これは×です。

アと同じく、対比構造をつくる「AではなくB」に注目します。
「肉体的な成長」⇔「心の成長」
このような対比もありませんでしたね。
よって×です。

「単なる理解」(自分の理解)⇔「他の人の「心」を推察する能力」=相手の立場に立つことができるようになること
第24段落の内容と一致しています。
これが○です。
第22段落「自分の知識が全て」を参照して
「自分」⇔「相手」
の対比を意識できるとウを正解にすることの違和感が少なくなるかもしれません。

心が身体を支配する主体である⇒「心」・「身体」の対比構造はない⇒×

この問題のように、

本文中にはなかった対比構造が選択肢にある⇒その選択肢は×である

という選択肢の正誤判断は日比谷高校の自校作成問題・国語において非常に有用です。

問3

傍線部は、「情報化社会とは」に続く表現です。
「とは」は物事を定義するときに使う表現です。
つまり、傍線部は情報化社会の定義に該当する箇所になっています。
よって、この設問は「『情報化社会』『脳化社会』についての説明として正しいものを選びなさい」と読み替えることができます。
本文全体を踏まえると、脳化社会とは
・あらゆる人工物は脳の産物
・自然も人為的に配置される(自然に対し、人間の意志に基づいて人間の手が加えられている)
・自然から人間が解放されている
・理性主義
・情報を重視する
・関係のないものはそぎ落とす
こういった特徴をもつ社会です。

「データとしての正しさが優先される」⇒×
「正しさを優先する」ということは本文に書いてありませんね。

「あらゆる要素を関連づけて」⇒×
これも本文に書いてありません。

「コンピューター上の仮想空間において検証」⇒×
これも本文中にありません。

「最も効率的に利用されるように」=「関係のないものはそぎ落とす」
「意識的に」=「人為的に」
ということで、これが正解となります。

この問3だけでなく、この年の大問4は、「傍線部前後をなんとなく読んでいれば正解できる」問題がないように思います。
おそらく、日比谷高校側が意図してこのような問題にしたと思われます。
自校作成問題の国語では、テクニックを使った消去法で傍線部前後の情報を活用して正解してほしくないのでしょう。
本文全体を、
・文章全体の構造
・段落の構造
・1文の構造
・語句の知識
・テーマに関する教養
を駆使して読解してほしいという日比谷高校からのメッセージを感じます。

問4

傍線部には主語が含まれていません。
こういった場合、主語を明確にすることで問題が分かりやすくなることが多いです。
傍線部の主語は「現代の都市は」ですね。
現代の都市は、
・照明の明るさが同じ(変わらない)
・床の固さが同じ
・(オフィスの環境は)天気がどうであれ同じ(天気に左右されない)
⇒つまり、無意味なものが一切ない
となっています。

「つまり」の後は筆者が特に伝えたいことですから、「無意味なものが一切ない」がキーワードになりそうです。

「AではなくB」は対比構造をつくります。
「個性的な状態を競い合う」⇔「同じ環境同じ条件で自由に競い合う」
という対比構造です。
この対比は本文にありません。×です。

「不快をもたらす様々な要素を排除していく」⇒「無意味なものが一切ない」(ゴキブリ・ハエなどの不快なものを排除している)
これが正解です。

全て計算されている⇒個人の感覚は問題にされていない
「無意味なものが一切ない」との関連性がまったくありませんね。×です。

「個人」⇔「全体」
この対比は本文中にありません。よって×です。

問5

250字で書く作文です。
条件は
・筆者の指摘する「人間の情報化」がどのようなものであるのかについての考えを書く
・「人間の情報化」に該当する具体例を示す

本文中では「人間の情報化」は
・生身の人間よりその情報・データを重視する
・意味のあるものだけに囲まれるようになる⇒意味のないものを許せなくなる
・人間が本当に求めている世界ではない
とされています。

また、具体例として
・医者が患者の表情や様子よりもカルテやパソコンの画面を見る
・銀行の事務員が本人よりも書類を重視する
・口頭ではなくメールで報告する
といったものが紹介されています。

つまり、作文に書く「人間の情報化」は、人間にとって本当に求めている世界ではない好ましくない世界を実現させるものである必要があります。
例えば、
「人間の情報化」
=データの重視
⇒データを入力したらAIが適職を判断してくれる社会が実現する
⇒その仕事に就くことになる
⇒本人の希望は考慮されない
⇒そのような世界は、人間が本当に求めている世界ではない
といった展開が考えられます。

あなたなりの例と展開を考えてみてください。

全体を通じて、平均点が低くなるのも納得の難しさでした。
傍線部前後だけでなく、全体の理解を前提に各設問を解く必要があることを感じさせる問題でした。
今後、日比谷高校の自校作成問題の国語を解くときはそういった意識で解いてもらえればと思います。

今回は以上です。

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